ル・クレジオ アルファベット

二枚の羽根を後ろに折りたたんだ大きな蠅のようなAの話をした。お腹が二つもあっておかしなB、CとDはお月様のようで、三日月と半月、Oはくらい空に浮んだ満月だ。Hは高い、それは木や家の屋根にのぼるのに使う梯子。EとFは熊手とシャベルに似ている。Gは肘掛椅子に腰かけた太った人。Iは爪先で踊り、跳び上がるたびに小さな頭が胴体から離れるし、Jの方はバランスをとって躰を揺らしている。しかしKは老人みたいに折れ曲がっているし、Rは兵士のように大股で歩き、Yは両腕を上げて立っており、「助けてくれ!」と叫んでいる。Lは川岸に立っている木で、Mは山。Nは名前のためで、人々が手で挨拶しているところ。Pは片足で立って眠っており、Qは尻尾の上に座っている。Sはいつだって蛇、Zはいつだって稲妻だ。Tはきれいで、まるで船のマストのよう。Uは花瓶のようだ。VとWは鳥、鳥たちが飛んでいるところ。Xは十字架と覚えておく。

ル・クレジオ「海を見たことがなかった少年」

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