【第4回】島根県信用保証協会 小野 氏の「改革」視座(後編) ~呼ばれたら飛んで行く「地方創生」屋さん〜

地方創生DXコンサルタントとして活動していく中でご縁があり株式会社猿人様主催の「自治体DX 友だちの輪」にてコラムを掲載させていただいておりました。

こちらのコミュニティが昨年度で終了したとのことで今回、猿人様よりこれまで投稿していた記事を私のNoteで掲載する許可を頂きましたので投稿していきます。


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こんにちは、地方創生DXコンサルタントの廣瀬です。

前回に引き続き、今回の後編も島根県信用保証協会の営業部部長、小野 拳さんをお招きしインタビュー形式でお届けいたします。

▼前編はこちらから

小野さんは中小企業診断士の資格もお持ちで、常に経営的目線・現場の肌感覚を持った立ち位置で地域の企業支援・事業支援に奔走されていらっしゃる闘士です。

筆者:話変わりますが、小野さんはそれだけ大所高所からも仕事の現在地および将来イメージを大切にして仕事を進めていらっしゃる。そんな小野さんは、言い方は変ですがなぜ島根にずっといらっしゃるんですか?より高度な仕事をしたいという思いで中央へ、大きな組織へと考える人も多いと思うのですが。

小野部長:ええ?(数秒黙考されてから)全く考えたことも無いです。明快にその気が一ミリも無いです。なんでだろう?はっきりとわかるのは仕事の作用点がここにあるから、このことに付きます。「事件は現場で起きているんだ」というセリフがあるでしょう。まさにそれです。中央での政策検討や企画立案も大切な仕事ですが、私はモノ・コトが起こる現場でモノ・コトに影響していきたいんです。だから、仕事の結果が作用することで仕事をすることしか考えてないです。

私は匹見という島根県のものすごい田舎の出身です。近くの益田の高校を出て大学では中学高校の教員免許を取って益田高校に実習に行きました。その時は生徒との関わりが楽しくて時間が充実しすぎて100%益田高校の教員になるつもりでした。そして実際の就職活動では島根県内での就職先ばかりを受けました。そんな中で一番最初に内定が出たのが保証協会だったのでここに決めたんです。島根に帰って仕事する。これが一番の私にとっての作用点だったんです。他の何でもなく、それ以外に重要なことはなかったです。

実際、今も島根で仕事をしていてたくさん周りの人に助けられて、そして自分もこの土地の方言もしきたりも知っていて、じいさんばあさんの価値観に共感できるから動けること・理解できることがたくさんありすぎて、それが楽しくてしょうがないです。今の仕事でできていることが10だとしたら他の土地にいったら7とか8しか成果出せてないと思います。

筆者:7~8だって相当なレベルじゃないですか?

小野部長:そりゃ、どこに行ったって一定レベル以上の成果を出す自信はありますよ。だけど、ここよりもレベルが下がるのは明白なんだから、そちらの選択肢を取る理由はないですよ。島根一択です。

筆者:なるほど。いままったく出身地の仕事を手掛けていない私からするとこれまでの自分の生い立ちを反省する気持ちになります。自分の出身地である北海道にそこまでの帰属意識を育てるだけのことができませんでした。自業自得ですが。ただ一方で私は海外に行って徹底的に被差別の立場におかれる経験をしたことで、他の皆さんとは違う考え方に至るようになりました。そのお陰で、日本の足りない部分も日本にしかない強みもたくさん見えました。海外で活躍する日本人はたくさんいらっしゃいますが、自分が強みを発揮できるのは海外ではなく、身を置きたいのは日本なんだとこれも小野さんと同じような感覚で強く思いました。

小野部長:面白い対比ですね。

筆者:はい、私もそう感じました。どこを対象に帰属意識を感じるかは異なっても、それがモティベーションの源泉になっているのは同じなんだなと思いました。

先程小野さんは映画のセリフを引用されて「事件は現場で起きている」という比喩表現をされましたが、まさに作用点である現場でお仕事をされていて似たようなストレスは感じませんか?

小野部長:そりゃもちろんありますよ。でもね、霞が関の人たちにも優秀な人はいるんですよ。ただ、付き合い方にコツがあります。

筆者:ものすごく興味あります。是非ご教授ください。

小野部長:霞が関の人たちには物事を良くしようという情熱はたくさんあって、現場を知ろうという好奇心もたくさんある。ただ、自分たちがどう関わったら良いかが見えてない。それは経験が無いからですが。

筆者:ふむふむ。

小野部長:そこでですね、我々は彼らが欲しい物はまず存分に時間も手間もかけて提供するんです。課題意識、現場の状況、人間関係、法制度、行政的制約などなど。そうしたら彼らは猛烈な情熱で彼らの検討すべきことを彼らの領分で進めてくれます。

その時非常に重要なことがあります。それは、彼らのアウトプットをどのようなものにして欲しいかをできる限り具体的な形にして我々から彼らに伝えておくことです。霞が関の皆さんは彼らの善意とプロフェッショナリズムで検討を進めてくれますが、どのような施策でこちら側に引き渡せば良いかがイメージできてないことがほとんどです。理由は現場での推進経験が無いからです。そのため、課題と要望だけを伝えても戻ってきた結果が全く現場では有用ではないということが起こるのです。それを受けて中央の人間はわかってないとか言っていても駄目なんですよ。ちゃんと「こういう形にしておろしてください」と具体的アウトプットを伝えておけば、彼らは優秀ですよ。できるだけこちらのお願いに寄り添った形で返してくれます。裏では我々のせいでたくさん苦労してくれているでしょうけれど。

筆者:そうかなるほど。それってあれですね「察してほしい」的態度じゃなくて、しっかりと欲しい物やタイミング、そういった具体的なその先の取り組みもしくは作業のイメージを伝えた上で、「あなた達がここにこういうことをしてくれると我々はここのボトルネックが解消されてこの先を進められる」的な伝え方をしなくちゃいけないってことですね。

小野部長:そうなんです。同じような要望を受け取ってもそれに応える方法は多種多様考えつきますよね。じゃあ、こちらはこういう環境でこういう進め方を考えているから、この様な助けがほしいんだと、そういうことです。まさに我々からすると要求の発射点と着地点この「両方」を明確に伝えて、要求を飛ばしたあとの放物線の上方は霞が関の優秀な人々が汗かいて奮闘してくれるので、我々は着地点をしっかり仕込んでおく。これで良好なバトンリレーが行えるんです。嗅覚も感度も良い霞が関の方々はボールもどんどん投げてくれるし、話題にもすぐ噛みついてくれます。

筆者:深いです。意外とこの点が漏れていて「伝えちゃいるけど、応えてくれない」って不満が世の中に溢れていそうです。

小野部長:溢れているでしょうねぇ。

先程のどうして上の組織や中央に行かないのかという話ですが、こんな大変な時代になったことで以前とはまた意味付けが変わってきている側面もあります。

コロナ禍が最も大きなインパクトを与えましたが、これまで起こった、バブル崩壊・金融危機・リーマンショックの三大危機では大手の製造業あたりが大きく被害を受けて我々の視野でいえば企業城下町的な範囲での影響が大きなものでした。ただ、今回は全く様相が違って9割を超える中小は今回の危機で本当に「ヤバい」という感覚でした。赤字とかそういうレベルではなく事業の継続がままならないという意味で。その危機感が強まった後押しもあって、ネット上でコミュニケーションすることが一気に我々の業界にも広がったと思います。

筆者:つまり今までは広がってなかった。もしくは広げる気がなかった。

小野さん:手厳しい。ま、実際そうです。

実際、そうせにゃいかんと思っていた人の数はそんなに変わら無いと思いますが、その動きを組織としてもう止められなくなった、止めなくなったということでしょうね。

保証協会にも有志の集まりで全国の保証協会仲間でのダイアログというコミュニティが育ってきています。もう150人以上が参加して、まさに現場での課題、取り組みをネット上で喧々諤々やっていますよ。

みんな自分の土地・足元に作用点があることを理解している人たちばかりだし、目の前で企業が倒産する状況を自らの目で見ていて、「こんな政策があれば具体的にこういう動きができる」という議論も活発ですし、実際に中央と連携して実現する動きにつながっています。こういったネットワークを更に盛り上げてアメーバ的に広げてもいけば、もう中央とか霞が関とかにいかなくても日本全体に作用できる時代になってきたとも思っています。そうすれば自分の眼の前の作用点と日本全体、両方をリアルに感じながら仕事ができます。

筆者:その眼の前の作用点とネットワークの活用による化学反応というのがまさに理想的なDXの進め方だと思います。ここでは本論ではないので詳細はまた別途小野さんとそれ専用の場面で盛り上がりたいと思いますが。

小野部長:是非、楽しいことはどんどんやりましょう。

筆者:小野さん今日は本当に示唆深いお話をたくさんありがとうございます。本当は夜通しお話を伺いたいのですが、本日の最後の質問としてこれから小野さんの作用点である島根は何を目指していかなくちゃいけないと思われていますか?

小野部長:そこですよね、作用点の担い手として大切なのは。

さっきも言及しましたが、世界情勢の中でここまで皆さんの息の届くところまで危機が起こっているのって、この30年でまったくなかったと思います。眼の前でどんどん事業家が風邪を引くどころか舞台から降りてもいきました。そんな光景をみていてですね、廣瀬さんがいつも言うように日本の将来どうなるんだということだと思うんです。土台・基盤が大切なんだとなったとき地元の中小企業の経営基盤を普段からしっかりしておかないと、毎度経済危機のたびに、それに影響されて地域経済がまさにグワングワン揺るがされている。この状況を繰り返さないために地元の経済・産業基盤を本気で整えていかねばならない。このことに真剣に取り組んでいきます。

一つここで地方の立場として苦言を呈すると、政策としては中小企業庁が保証協会や自治体を連携させようとしているけれど縦割りで機能も権限もバラバラで物事がなかなか進まない事が多い。地方でその経済・産業を支援する立場にいる人には自分たちにできることとできないことをもっともっと考えて自分以外の組織の人と「できることを増やす・強める」ために積極的に連携してほしいということです。自分にはいろんな事情・制約があってできないことがある。それを実現するのが外部との連携なんだということ。その認識があって初めて外部と横の組織と効果的に連携できる。内部の連携にとどまってはいけないんです。自分たちのできることできないことがわかれば、できないことは外部の適切な影響力を引っ張ってくることができるんです。この点がわかっておらずに「それはできないです」で議論を終わらせてはいけないんです。縦割りの組織は必要性があってそうなっている場合もありますが内部で動きをとどめてしまうことが一番避けなくてはいけないんですよ。

筆者:今日の最後のお話がまさに小野さんのプロ魂という気がいたしました。本当に貴重な話ありがとうございます。

小野さん:こんな話で役に立つんですか?上手く書いてくださいね。

筆者:もちろんです。今日のお話は宝の山です。ありがとうございました!


©2023年 株式会社猿人ならびに「自治体DX 友だちの輪」コミュニティ

本資料は株式会社猿人主催「自治体DX 友だちの輪」コミュニティにてコラム掲載。
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