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【歌詞考察】B.O.B./OutKast (2000年)〜タイトルの意味について考える

【はじめに】


プレイオフが佳境に入る中、NBAではあるコート外のスキャンダルが話題となっている。グリズリーズの若きエース、ジャ・モラントが友人のインスタライブ配信中に拳銃をひけらかしたことで、批判にさらされている。

NBAを追っていない人には、なぜそこまで大騒ぎするのかピンとこないかもしれない。実はジャはこれまでにも度重なる素行不良が取り沙汰されていた。10代の少年をボコボコにしたり、ショッピングモールの警備員を脅迫したり…それらはジャの悪友の影響によるところが大きいらしく、その付き合いを「精算」すべきだと指摘されてきた。
そんな中で、今年2月に遠征先のストリップクラブで酔っ払って拳銃を持ち出す様子をライブ配信するという愚行をおかしてしまう。リーグは2試合の出場停止を科すが、「処分が軽すぎる」という批判を受ける。
ラフプレーが多く、相手選手を怪我させることも多かったことも重なり、所属するグリズリーズはレギュラーシーズンを2位という好順位でフィニッシュしたものの、NBAファンの多くから嫌われるヒールとなった。そしてプレーオフ1回戦で、格下第7シードのレイカーズにアップセットされ、呆気なく敗退した。

不甲斐ないシーズンを送り、雪辱を誓うべくこのタイミングで、ジャは再び同じ過ちを繰り返してしまったのである。これまで擁護してきた人の中にも、「まさかここまでアホだったとは…」と失望を隠せない人は多い。(かくいう私もその一人だ)

そんないまのジャ・モラントに、ラップグループのOutKastの2000年の楽曲『B.O.B.』のフックの一節を贈りたい。

Don't pull the thang out, unless you plan to bang
撃つ覚悟もないくせに銃を抜くな
Don't even bang unless you plan to hit something
当てる気もないくせに引き金を引くな

あくまで意訳にはなるが、『B.O.B.』の歌詞全体も、要約すれば「まっとうに生きろ」であり、意外に思われるかもしれないが、「道徳的なラップ」ともいえる。なぜOutKastはこの曲を作ったのか、特にタイトルのB.O.B.(Bombs over Baghdad)は、訳すなら「バグダッドに投下された爆弾」で、全く脈絡がないように思える。なぜこんなタイトルをつけたのか。そのヒントは、一昨年公開されたドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』にある?


【実は道徳的なB.O.B.】


※ここでは全ての歌詞を訳しません(歌詞全文は↓)


ポイントを抜き出していくとまずAndre3000のヴァース。注目すべきは、フッドを悲観するパートだ。

Stack of questions with no answers
Cure for cancer, cure for AIDS
答えのない問題(ガンやエイズどう治す?)に詰まってばかり
Get back home, things are wrong
地元の状況は芳しくない
Well, not really, it was bad all along
いや訂正する、なにもかも最悪だ

「状況が悪くなっているというのは、もちろん地域の貧困や治安の問題だろう。生きていくために、閉塞的な運命を打開するために、売人になったり強盗になる。それがまた悪循環を生み、街はますますスラムになっていく。

Hello, ghetto, let your brain breathe
だけどゲットーのみんな深呼吸しよう
Believe there's always more, ah!
必ず別の道があると信じよう

最後の「always more」の後にはway(方法、やり方)が省略されていると考えられる。つまり、アンドレは「君のそのプランよりもっといい方法が絶対にあるはずだ!」と言っている。プランとは犯罪や違法行為で金を稼ぐことと考えるのが自然だと思う。それは本当に最終手段であって、頼むから道を踏み外してくれるなよと懇願しているのだ。

2番のBigBoiのヴァースでは、さらに呼びかけが具体的になる。

Did you ever think a pimp rock a microphone?
ポン引きがラッパーとして大成すると本気で思ってるのか
Like that there boy and will still stay street
あそこのガキみたいに一生ストリートから出られないだろう

ギャングスタラップなんてものは「おとぎ話」で、本気にするなと諭している。

Before you re-up, get a laptop
ワルから足を洗って、PCを買え
Make a business for yourself, boy, set some goals
目標を設定してビジネスで生計を立てるんだ

re-upは「再就職する」という意味らしく、売人や強盗に戻るのではなくラップトップを手に入れて、普通の仕事をしろと言っていることになる。そしてここから、ビッグボーイは自分たちが音楽業界で実績と評価を積み上げてきたことをボースティング(自慢)していく。「俺たちも努力でコツコツ頑張ってきた、だからお前らも頑張ってほしい」というエールだ。

しかし、そこまで言ってしまうと説教くさいというか、「それが出来たら苦労しねーよ!」という気もしてしまう。だからこそ、Bombs over Baghdadがいきてくるのだ。

【ラップの始祖ギル・スコット・ヘロン】

アメリカのゲットーの現実を歌った曲に、なぜバグダッドの空爆なのか。ここで、『サマー・オブ・ソウル』である。いや、実は映画自体ではなくそのサブタイトルとなっているthe Revolution Could Not Be Televisedという言葉に注目したい。

これはギル・スコット・ヘロンという、詩人かつミュージシャンの有名な詩を引用したものである。「革命はテレビ放映されない」というのは、つまりテレビの前に座って受け身になるのではなく、自分からデモに参加して革命を起こせというアジテーションであり、そのポエトリーリーディングを「ラップの始祖」と評価する人も多い。余談だが、私はポエトリーリーディングより、彼が普通に歌っている楽曲の方が好きである(歌も普通に上手い)

『Whity On The Moon』という彼の詩がある。これはひたすら、「俺たち黒人がこんなに苦しい思いをしているのに、白人は月に行くとかぬかしている」と怒りを吐き出すもので、映画『ファースト・マン』でもポエトリーリーディングが印象的に使われている。

前置きがめっちゃ長くなってしまったが、要するにコレである。Outkastがタイトルを『B.O.B』にしたのは。2000年の曲なので、湾岸戦争のことだと思われるが、「俺たち黒人がこんなに苦しい思いをしているのに、テレビは国外のことばかり」というニュアンスを込めたかったのではないだろうか。自国の国民がどんなに悲鳴を上げても、街が荒れても、テレビは絵空事のようなニュースでそれを塞いでしまう。しかも塞いでいるニュース自体が究極の暴力であるということもまた非常に恐ろしい。「暴力で何かを解決するということの究極の行き着く先は…なっ、だからやめようぜ」という意味もあるだろう。

それでも、絶望しないで欲しい。俺たちはちゃんとあなた達のことを見ているから——2人がこの曲で最も言いたかったのはそういうことではないだろうか。もちろん歌詞の多くは言葉遊びだったりして、コンシャスなプロテストソングとは言えないかもしれない。しかし、それでもフッドとの連帯感を表明し、「なすべき事をしろ」と訴えかける姿勢は純粋にカッコいい。
あと余談オブ余談だけど、この曲を初めて聴いたのは結構後のことで、当時は歌詞も分からなかったので最初の印象は「えっ?BENNIE Kじゃん」だった笑。ぜひ聴き比べて欲しい。

そして最後に翻ってジャ・モラントである。ギャングスタを気取ることがカッコいいと思っているのだとすれば、それは大間違いだ。彼の超人的な身体能力に憧れ、お手本にしようとする若い世代はたくさんいる。彼の処分がどうなるのか、来シーズンどれだけ試合に出られるのかは分からないが、今度こそなすべき事をして欲しいと、極東の島国のいちバスケットファンながら、願わずにはいられない。


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