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『天気の子』の俳句鑑賞

こんにちは!

アニメ俳句部部長の広瀬康です。

先日、アニメ俳句部で『天気の子』の俳句を募集したところ、計42句の俳句が集まりました。

みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。

句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。

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梅雨という水の魚の降る季節   イサク

季語の「梅雨」を「水の魚の降る季節」と詩的に把握した一句。作中でも空を泳いでいるかのような水の魚がたくさん出てきていましたね。梅雨に降る雨に生命を宿すような比喩が見事です。下五の「季節」の体言止めが句全体をしっかりと支えています。

薫風に制服の君晴れ晴れと   一久恵

木々の緑の香りを運ぶ「薫風」が吹いた先に制服を着た君が晴れ晴れと立っている。そんな景を思い浮かべました。作中のラストで制服を着た陽菜が登場していたので、そのシーンを詠んだのかなと思いました。下五の「晴れ晴れと」が上手く、表情まで見えてきそうです。また、天気に関係のある「晴れ晴れと」という表現は、この作品にも沿った表現になっていていいですね。

年上と嘘つく君よ夏の雪   里山子

生活していくために年齢を偽っていた陽菜。その嘘をとても繊細な一句にしていただきました。中七の最後の「よ」の詠嘆で切れ、空からは夏に降るはずのない雪が降ってきます。「夏の雪」という特異な季語と陽菜の切ない嘘を取り合わせた、天気の子を凝縮したような一句になっていてすごいです。

五月雨や東京ひどく撲たれをり   龍田山門

歳時記によると「五月雨」は旧暦五月に降る長雨のことで、梅雨のことだそうです。上五で「五月雨」を詠嘆し、切れ、そこから「東京ひどく撲たれをり」という読み応えのある中七下五が現れます。東京というたくさんの人が集まる都市では、辛いことや苦しいことが日々起きていることでしょう。そんな鬱屈とした東京を殴るように打つ五月雨の雨粒。厳しい現実に向き合う強さを持った一句になっています。

廃ビルの鳥居くぐれば雲の峰   土佐藩俳句百姓豊哲

もう使われていない廃ビルの屋上にある鳥居をくぐれば、雄大な雲の峰が空に膨れ上がっている。「廃ビルの鳥居」で場所と映像を描き、「くぐれば」で動作を描き、最後に主役の季語「雲の峰」が登場する。感情を排した無駄のない優れた一句だと思います。

愛にできることはあるかい梅雨の月   鳥田政宗

天気の子の主題歌「愛にできることはまだあるかい」の歌詞と季語「梅雨の月」を取り合わせた一句。梅雨の夜に思いもかけず見つけた月を見て、愛にできることはまだあるのか、それとももうないのかと自問自答します。梅雨の月の綺麗さに愛にできることはあるという答えに導かれていくような、そんな一句かなと思いました。

はたた神海へと還る深き空   猫髭かほり

季語「はたた神」は激しい雷のことを言うのですね。勉強になります。中七下五は海と空をつなぐような詩性にあふれた措辞。「空は海よりも深い」という作中の台詞を受けての中七下五なのかなと思いました。空の青さと海の青さを「はたた神」が繋ぎます。

再会を祝す東京花の雨   みーゆん

作中のラストの陽菜と帆高の再会を詠んだ一句。二人の再会を祝うように東京に降る「花の雨」。雨が降り続いていても、人々はその中に幸せを見出します。桜の咲くころに降る雨も、誰と会うかによって祝福の雨になるのだとこの句は言っているようです。東京というたくさんの人がいる都市での再会だからこそもう一度出会えた喜びが大きいですね。

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謝辞

みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。

今回の『天気の子』の俳句42句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。

今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。

【アニメ俳句部今後の予定】
12月10日~ 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の俳句募集

リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。

ではまた。

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