『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の俳句鑑賞
こんにちは!
アニメ俳句部部長の広瀬康です。
先日、アニメ俳句部で『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の俳句を募集したところ、計59句の俳句が集まりました。
みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。
句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。
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萬緑の中を兵士の眠りをり イサク
生命力あふれる萬緑の中を進んでいくと、墓地が見え、そこに兵士が眠っていると気づく。もしくは戦争中、萬緑の中で血を流し死にゆく兵士たちへの追悼句とも読めます。生きている萬緑と死の対比が効いています。
ありがとうのこし少年ゆく銀河 一久恵
病気により入院していたユリスは、作中で亡くなってしまいます。この句は死を直接的に表現するのではなく、「ありがとうのこし」「ゆく」という言葉から匂わせています。少年の旅立った先が「銀河」であることにも詩的壮大さがあります。
冬ざれや文に宅せし想い人 うさぎとさくら
季語「冬ざれ」は見渡す限りの冬の景色で、荒れさびた感じのことを言うのですね。中七下五からは、想いを文章にして手紙に託す人間の切ない営みが感じられます。季語と想いの詰まった手紙が響き合います。
曾祖母の手紙とわたし冬満月 三尺玉子
この曾祖母はアンの母のことですね。曾祖母が祖母に宛てて書いた手紙を手に、「わたし」は冬の満月を仰ぎます。曾祖母の手紙から伝わる愛情と曾祖母も祖母もこの世にはもういないという寂しさが、冬の満月の清らかさに集約にされています。
菫咲くブーゲンビリアの空の下 水蜜桃
ヴァイオレットの名前の由来でもある季語「菫」が咲いています。中七の「ブーゲンビリア」はギルベルト少佐の家の名前ですね。ブーゲンビリアという固有名詞の効果で、空の青さに気品のようなものを感じとることができます。
春野より羽ばたく美しき手紙かな 龍田山門
作中、手紙が空を飛んでいくシーンがありましたね。季語である「春野」を起点として、風にあおられた手紙は空へと羽ばたきます。鳥のように羽ばたく手紙の美しい動きが結びの「かな」で詠嘆されています。
葡萄園リフトが軋む音の夕 土佐藩俳句百姓豊哲
ギルベルト少佐がいた島では、ちょうど葡萄が収穫される時期でした。中七から下五にかけてのゆったりとした調べが心地よい一句になっています。リフトが収穫したブドウの重みで軋む音が聞こえる夕方の光景はきっととても情緒的で美しいことでしょう。
ヴァイオレットエヴァーガーデン秋の空 鳥田政宗
主人公の名前と季語「秋の空」を取り合わせた一句。菫の花が永遠に咲きつづけるかのように思われる美しい庭の頭上には、大気の澄んだ秋の空が広がっています。
ほほえんで旅立てるよう秋惜しむ 猫髭かほり
別れるときに「ほほえんで旅立てるよう」に、我々ができることは、季節のうつろいをちゃんと惜しむことなのかもしれません。今度いつ会えるかわからないからこそ、出会えた今の季節、この句で言えば、秋を必死に惜しむ。季節との向き合い方を教えてくれるような一句です。
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謝辞
みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。
今回の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の俳句59句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。
今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。
【アニメ俳句部今後の予定】
1月6日~ 『ハウルの動く城』の俳句募集
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ではまた。
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