おおかみこどもの雨と雪の俳句鑑賞
アニメ俳句部運営の広瀬康です。
先日、アニメ俳句部で「おおかみこどもの雨と雪」の俳句を募集したところ、計100句ものおおかみこども俳句が集まりました。(100句のうち58句は夜行さんの句です)
みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。
句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。
---------------------------------------------------------------------------
無口なる隣人やさし馬鈴薯植う/いさな歌鈴
土の耕し方、畝の作り方、鍬の振り方、そのすべてに助言をくれた韮崎のおじいちゃんの不器用なやさしさが感じられます。言葉数少なくてもやさしい人っていますよね。
雪山を駆ける八足と二足/いさな歌鈴
雨と雪、そして花が雪山を駆ける躍動感あふれるシーンを詠んだ一句。四足で走る雨と雪に対し、二足で走る花。人間とおおかみこどもの違いを足に着目して表現している点がうまいです。
老狼はしづかに立ちぬ夏の檻/いさな歌鈴
この老狼は「新川自然観察の森」の施設内にいたシンリンオオカミのことですね。檻の中で飼われていても老狼には気品があることを、中七の「しづあに立ちぬ」という描写から感じます。夏の檻も詩的に響いてきていいですね。
狼に「しっかり生きて」冬の山/鳥田政宗
花が雨に放った言葉を率直に句にしてくれました。ストレートな句だからこそ胸の底までメッセージが伝わります。
空蝉や耳には治りかけの傷/髙田祥聖
雪にひっかかれた草平。治りかけの傷を雪に触らせるシーンは印象的です。蝉が皮を脱ぎ成虫になるように、雪と草平も日々、過去の自分を脱いで大人へと成長していきます。
男親代わりの狐かもしれぬ/髙田祥聖
雨の先生のことを詠んだ一句。父親に会ったことがない雨にとって先生は本当に父親代わりの存在だったのかもしれませんね。断定しないところが素敵です。
五月雨の向かふに僕の国はあり/龍田山門
この僕は雨だと読みました。もう山に行っちゃダメとう花に対して、雨は真っ向から反論はしなかったですが、この句のようなことを思っていたことでしょう。「僕の国」という言い方にはオリジナリティを感じます(作中このような台詞はなかったはず)。「五月雨の向かふ」という場所の示し方もうまいです。
本当のことは野分の中で言ふ/龍田山門
雪が草平の前で狼になるシーンも、「彼」が花の前で狼になるシーンも風が吹いていました。どの人にも人生で何度かは、秘密にしていたことを言う、本当のことを言うタイミングというのが来ると思います。静寂の中よりも激しい風吹く中の方が言いやすいこともあるなあと思いました。
雨と雪遊び疲れて電池切れ/Ticoa
体力を使い果たすまで遊びまわった雨と雪。すやすやと眠る二人の寝顔まで浮かんでくる幸せな句。
はつ夏や白紙の出席票きれい/夜行
大学の授業の出席票を出さずに帰る彼。何も書かれていない白紙の出席票をきれいと感じる詩的感性がすごいです。はつ夏との取り合わせもさわやかでいいです。
指さして街の冬灯の多様性/夜行
このシーン、自分も詠みたかったです。同じ団地でも家の中はそれぞれ違う。多様性という詩語になりにくそうな言葉からも詩性を引き出せるのがすごいです。
シャッターを背に読む文庫クリスマス/夜行
クリスマスの夜、なかなか来ない彼を待つ花。「シャッターを背に」という言葉からお店が店じまいしたあとも待ち続けているのだとわかります。さびしさと彼は来るはずだという健気な願いが感じられます。
狼は口づけが下手冬銀河/夜行
正面からではなく横からの彼の口づけ。おそらく人間に口づけしたことなどなかったのでしょう。上五中七のふたりだけの世界が下五の季語「冬銀河」で一気に広がりを見せます。
磨り硝子ごしの手のひら青田風/夜行
掃除していくうちに光を取り戻していく空き家。この句は花が磨り硝子の模様に気づいたシーンを切り取っています。戸が開け放たれた家を、田んぼからの風が吹き抜けていきます。
種芋を届ける夕立かき分けて/夜行
韮崎のおばさんが種芋を持ってきてくれたシーン。車から降りて縁側に入るまでのおばさんの動作を「夕立かき分けて」と表現したのですね。雨の中届けてくれた種芋の重さはそのまま韮崎夫妻のやさしさの大きさでもあります。
ヒトだつて獣だ雪に飛びこめば/夜行
雨と雪につづいて花までも雪の中に飛び込みはしゃいでいた様子を詠んだ一句。言葉を使い、火を使い、さまざまな電子機器を使っている内に忘れてしまいがちですが、人間もおおかみやきつねといった他の動物と同じ動物だということを大自然の中で感じます。
父のこと話す春夜のバスの揺れ/夜行
「新川自然観察の森」にはじめて行った日の帰りのバスの中。窓外の春夜の闇と灯を眺めながら、亡き父のことを親子は話します。もう会えない切なさが春夜の空気感に溶けていきます。
早退の席にありつたけの春日/夜行
耳を怪我して早退した草平と、教室にいられなくなって早退した雪。二人の席にはたっぷりと春の日が差しています。やさしい春の日差しは傷ついた二人に明るい未来が待っているとほのかに示しているようです。「ありつたけ」という量の表現もいいですね。
カーテンの向うに不定形の夏/夜行
このアニメのクライマックスの一つである、雪が草平に、自分がおおかみであることを告白するシーン。豪雨の強風にひるがえるカーテンの中で雪は姿を変えます。「不定形の夏」という詩があふれるような言葉。最初から決まっている定形の夏など、おおかみこどものキャラクターたちにも私たちにも来ない。今年も来年も十年後も不定形の夏が待っています。
みなさま、素敵な句をありがとうございました。
今回、広瀬は「おおかみこどもの雨と雪」初見だったのですが、みなさまと一緒に俳句を作りながら見ることでとても楽しめましたし、泣きました。
自分が詠みたかったシーンで、でも、実力不足で詠めなかったシーンをいくつもみなさまが詠んでくださいました。
今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。
リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。
(なお、今回のおおかみこども俳句100句は一覧にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、ツイートします。)
ではまた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?