見出し画像

『竜とそばかすの姫』の俳句鑑賞

こんにちは!

アニメ俳句部部長の広瀬康です。

先日、アニメ俳句部で『竜とそばかすの姫』の俳句を募集したところ、計78句の俳句が集まりました。

みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。

句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。

-------------------------------------------------------------------------------------

冷索麺母亡き友に食わせけり   阿部八富利

ヒロちゃんとすずが昼食を食べていたシーンを詠んだ一句。「母亡き友」とは主人公のすずのことですね。下五「食わせけり」からは、すずを励まそうとするヒロちゃんのやさしさを感じます。最後を切字「けり」で言い切ることによって、索麺の清涼さも際立ちます。ちなみに二人が食事をしていた場所は、「ふれあいの里柳野」というところらしいです。高知に旅行に行くことがありましたらぜひ行ってみてください。

鈴の音を澄み渡らせて朧かな   イサク

アニメ俳句として読むならば、この句の「鈴」は主人公の鈴を指していて、「鈴の音」というのは鈴が歌う歌を指すのでしょう。一方、この句はアニメの文脈と関係なく読んでも、鈴の音が澄み渡る夜の朧という詩的な句になっています。上五中七で聴覚情報、下五で視覚情報、一句全体を通して春の夜の空気感が伝わってきます。

四万十に小石蹴りたる秋夕焼   一久恵

高知県の四万十川に向かって小石を蹴る。うつむいている顔を上げると、たちまち暮れていく秋の夕焼が河原を寂しく照らしている。そんな景でしょうか。感情を直接言わずに、四万十川や小石を蹴つる身体感覚、そして「秋夕焼」という季語によって、寂しさを表現できているのがすごいです。

一群のかなしみの灯や唄う秋   三尺玉子

終盤、アンベイルしたすずがUの世界で歌い、大合唱へとつながっていくシーンですね。まずうまいのは「一群の」という上五。群衆の映像を確保し、中七で「かなしみの灯」という詩的な景を描く。「唄う秋」という言い方も私には新鮮でした。最後まで読むと、たくさんの「かなしみの灯」がみんなで歌う歌に揺らいでいるような光景も見えてきます。

龍淵に潜め希望を人に秘め   水蜜桃

「竜淵に潜む」という季語は、このアニメにぴったりな季語ですね。「希望を人に秘め」という措辞からは竜がベルに抱いたであろう希望が感じ取れます。「潜め」「秘め」と動詞の形をそろえ韻を踏んでいるところも良いですね。

四万十の月へホントは歌いたい   鈴白菜実

作中の舞台である高知県四万十。「四万十の月」ということで四万十川から月までの空間が見えてきて、「月へ」の「へ」で作中主体が月を見上げていることがわかります。そして景を描いたうえで「ホントは歌いたい」とうストレートな感情表現。上手いですし、切実さが伝わります。

殴り書く詩が枯野になつてゆく   龍田山門

母を失い、感情を紙に何枚も何枚も殴り描いていたすず。殴り描いた感情の発露としての「詩(うた)」が、やがて「枯野」になっていくとこの句は言っているのです。実景というよりは心象風景をスケッチした句と捉えました。紙に書いた詩は、すずが現実の枯野へと踏み出していく勇気にもなっていきます。

龍淵に潜む孤独に戦いて   千代之人

仮想現実の世界でも現実でも孤独に戦う竜を描いた一句。「竜淵に潜む」という時候の季語でありながら、映像も持っている稀有な季語だからこそ、孤独に戦った結果、空から落ちて淵に潜む竜の姿が見えてきます。

風光るスマホ画面に鍵盤図   土佐藩俳句百姓豊哲

すずがスマホにピアノの鍵盤画面を出し、作曲していたシーンですね。「鍵盤図」という下五がオリジナリティになっていると思います。スマホ画面の鍵盤を押して作曲してると、風もよりきらめいて見えてきそうですね。スマホから鳴るメロディーと風の光が呼応しているかのようです。

歌姫は田舎娘だ冬隣   鳥田政宗

世界的な歌姫ベルの正体は、日本の高知の高校生。これからメタバースが流行ったら、それこそこういう事例がたくさん出てくるのでしょう。中七の「田舎娘だ」から下五「冬隣」へのつなげ方が上手いと思います。秋が終わろうとしている、弱い日差しの田舎の空気が読者に伝わってきます。

鯨舞う四角い空やラ.ラララ   猫髭かほり

「ラ.ラララ」とあるので終盤の大合唱のシーンを描いた句だと思いました。「鯨舞う」はまさにUの世界を飛ぶ鯨ですね。四角い空というのも仮想現実Uの硬さが出ていて良いと思います。下五「ラ.ラララ」の句点も歌のリズムを表すものとして成功してると思います。

巨鯨吠ゆ竜に歌声届けんと   みーゆん

終盤の大盛り上がりのシーンを描いた一句。すずの歌の大合唱によってUの世界に現れた鯨を「巨鯨」と表現することであのサイズ感が伝わりました。「竜に歌声届けんと」は映画に沿って読み解くなら、アバターの竜のことを指しているのは自明ですが、「鯨」と伝説上の生き物である「竜」との関係を詠んだ一句としてこの句を味わえば、ダイナミックな詩的な世界観が開けます。アニメ俳句としても、俳句としても、良い句だと思います。

---------------------------------------------------------------------------------

謝辞

みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。

今回の『竜とそばかすの姫』の俳句78句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。

今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。

【アニメ俳句部今後の予定】
10月28日~ 『君の名は』の俳句募集
10月29日~ 『ONE PIECE FILM Z』の俳句募集
12月10日~ 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の俳句募集

リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。

ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?