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「短編小説集」

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自作の短編小説集です。キャバクラ からファンダジーまで。作品によって幅があるので、気に入っていただけるものがあると嬉しいです。
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#第三次世界大戦

小説 『黒い雨、死の灰、赤いクーペ』 #3/3

世界で一番きれいな場所はどこだろう? 雨の降ったあとのウユニ塩湖、朝陽に照らされたピラミッド、夕焼けのモルジブの海、コート・ダジュールの夏の日差し、シルクロードをすすむラクダの群れ、アラスカの白夜にうかぶ七色のオーロラ――。私はそのどれも見たことはなかった。 「『ブラウン・バニー』って映画があって」と、暗闇の中でミナミの声がする。「ウユニ塩湖は、日本だと雨季が有名だけど、乾季になると、地平線まで、まったいらな地面があらわれる。巨大な、ありえないぐらい巨大なグラウンドだ。自

小説 『黒い雨、死の灰、赤いクーペ』 #2/3

夢オチ、という魔法の言葉がある。 少年ジャンプで連載が打ち切られる漫画や、逆に長すぎて収集がつかなくなった漫画でときどき使用される。 物語の全部が夢だった、という展開。目が覚めたら別の世界だった、というオチ。 それまでのストーリーを全部無視してちゃぶ台をひっくりかえす禁断の手法だから、評判は良くない。でもーーと私は思う。現実が直視できないくらい悲惨なら、夢であったほうが絶対に良い。 起きて別世界だったら泣いて喜ぶほど幸せだったのに、まだ私は地下の研究所にいた。 停電

小説 『黒い雨、死の灰、赤いクーペ』 #1/3

1週間ぶりに地上に出たら、世界が消えていた。 駐車場の一番手前の右側に停めていたはずの車がなかった。私の車だけじゃなくて、10台はあった全ての車が(地震研究所の資材運搬用の大型トラックも)、どこにも見当たらなかった。 というか、駐車場それ自体がなかった。アスファルトや車止め、ガードレールごと消滅していた。そのかわり赤茶色の土があたり一面に広がっている。 街への道路も、陸橋も、果樹園の巨大な看板も、なにもかもがなかった。ここは日本の長野県のはずなのに、アメリカのグランドキ