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#15 インナーの無理解に対抗できるかもしれない、LVMHの例。

これまでブランディングの仕事をしてきて、インナーブランディングのところだけでも各社それぞれにさまざまなハードルがありましたけど、中でも高めというか、それが出てきたら難しくなるに決まっているケースがありました。それは、社長の無理解!ですね。基本的にブランディングを発注してくださる方は経営陣であることがほとんどですし、理解もそれなりに有るわけですが、その方が副社長や専務だったりして、いざ社長にお会いしてみたら、ブランディングの必要性なんて感じていない場合もあります。これまで経験したレアケースとしては、社長からの依頼で始めていたら途中で社長が交代して、あー困った、ということもありました。

きっと無理解な社長との対峙はこれから先も起こると思うのですが、そうした場合どうするのか?というと、もちろん、まずは話し合いです。その時に例に挙げるのが、世界的に儲かっている会社のことです。だいたいブランディングへの否定的な意見は、売上げに寄与しないとか、効果が具体的に分からないとかがほとんどですので、売上げが強力な会社の例がてっとり早いわけです。まあ、そこから始めて、効果についても説明していきます。

で、どういう会社の例を挙げるかといえば、とりあえずAmazonやGoogleですかね。この2社は莫大な利益を得ていますし、理念と実務との結びつきがとても密接で、話題としても面白いですからね。でもICT系の話をされてもなぁ、という雰囲気の場合には、LVMHグループを例にすることがあります。

LVMHグループは、ご存知ではありましょうが軽く説明すると、「Moët Hennessy−Louis Vuitton」の頭文字が呼称になっていて、とにかく超がつくような一流ブランドの集合体です。ルイ・ヴィトンや、モエ・エ・シャンドン、ヘネシーというグループ名になっているメゾンはもちろん、クリスチャン・ディオール、ブルガリ、ティファニー、ドン・ペリニヨン、ゲランなどなど、キリがないのでやめときますが、世界的に著名な75ものメゾンを動かしているグループです。

そしてこの、グループとして考えると悪く見れば寄せ集めで、ポリシーもてんでばらばらじゃないかと思えるメゾンたちを、実はかなりしっかりと構築された理念体系でまとめているところは、とても参考になります。ホームページに行って探ると分かるのですが、そこらへんの記述にはものすごい量と質と濃さがあります。

まずはトップページから「グループ」の説明ページに行くと、「ビジネスモデル」「コミットメント」「マイルストーン」に枝分かれし、「ビジネスモデル」では、グループの概要や行動規範(日本語版で28pのpdfがダウンロードできます)、事業の6つの柱の説明があります。

理念的な側面では特に注目の「コミットメント」では、箇条書きにすると
⚫「継承とサヴォアフェール」についての4項目それぞれの説明と、関連の最新情報(9/27で7項目)
⚫「リーダーシップと起業家精神」についての5項目それぞれの説明と、関連の最新情報(9/27で8項目)
⚫「社会責任と環境責任」についての7項目それぞれの説明と、関連の最新情報(9/27で7項目)
⚫「芸術と文化」についての3項目それぞれの説明と、関連の最新情報(9/27で7項目)

といった具合です。ここではグループの考え方がかなり分かりやすくまとめられていて、読み応えがあります。タイトルは英語やフランス語が混じっていますが、本文は日本語で読めます。

そして「マイルストーン」では、メゾンやグループの1593年からの代表的な歴史がビジュアル付きで説明され、スクロールで見られます。例えば2020年の記述は、『LVMHと社員は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、その力を結集。これにより、医療機関や地域社会、団体向けにアルコールジェル、マスク、作業着などが製造されました。また、リールのパスツール研究所には、新型コロナウイルスの研究費が寄付されました。』という記述が数枚の写真と共にあり、こういう種類のことも大事にしている企業姿勢を垣間見ることができます。

次に、トップページから「メゾン」の説明ページに進むと、6つの事業内容ごとに分かれて、それぞれに属するトータルで75のメゾンをひとつずつ説明したページに行くことが出来ます。これらは、メゾンそれぞれのホームページとは違って「アイデンティティ」から始まっていくつかの項目をにフォーマット化されていて、事業の説明ではありますが、それぞれの思想や姿勢が感じられる方向でのまとめ方になっています。

さらに、トップページから「人材」の説明ページに進むと、どういう募集職種があって、そのそれぞれの使命の説明など、人材募集の基本的な部分をかなり丁寧にまとめていますし、グループ全体のビジョンや理念の説明もここにあります。そして僕が特に感心したのが、ダイバーシティをどう考えているかが表現されている「Unconscious Bias(無意識の偏見)」というページで、自分の中にある無意識な偏見に気づくためのプログラムや、それぞれのメゾンで働いている方々の意見などが、動画や文章で紹介されていきます。このような内容をホームページの項目に立て、きちんと表現していることの知性と感性はすごいなーと思いますし、次にリクルーティングのホームページをディレクションするときには、ぜひ参考にしようと考えています。

75もの一流メゾンを理念的に結びつけることを重視し、これだけの理念、思い、ビジネスについての説明を、フランス語、英語、中国語、イタリア語、ロシア語、そして日本語のバージョンで作成して知らせようとする姿勢は、なかなか出来ることではないでしょう。そして、利益面からみてもこのグループは成功しているので、最初に書いたような、インナーブランディングの必要性に懐疑的な方々にも、ある程度の説得力が期待できるわけです。まあ、理念と利益の関係がどうしても結びつかない人は、それはそれでいらっしゃるので、もし、そういう社長が率いる会社であれば、もはやブランディングは諦めたほうが良いと思います。

ブランディングについて、理念の整理の仕方や、インナーからアウターまでの流れを説明する本を出しました。
ぜひお読みください(写真をクリック!)。

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