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空は晴れ、眼鏡は曇る。

昨日は酷い風だった。
東京では台風並みの強風が吹き
道玄坂の街灯が倒れたりしたらしい。

風の強い日は心がざわざわする。
怖いような、少しワクワクするような。小学生の時、優等生のヒラノさんという友達がいて、昨日のような風の強い日に一緒に帰ることになった。弱い雨も降っていたが、傘は風でお猪口になって意味を成さず。

ランドセルを背負ってしっぽりと濡れながら強風の中を歩く。飛ばされそうだし野良犬はいるし、私は最悪の気分だった。だが、ヒラノさんは足取りも軽く風に身を任せ自分の意思で飛んでいきそうである。「風の強い日ってワクワクするよね。空気の中に体が浮いてどこまでも行けそう。いつもの場所でも冒険してるみたい」

濡れネズミで弱っている私に比べて、
風を味方につけたヒラノさんは神々しかった。「魅せられて」を歌うジュディ・オングぐらい輝いていた。以来私はどんな逆境にもワクワク感を持って挑むような人間でありたいと思っている。昨日みたいな日は危ないので外には出ないが。

打って変わって今日は雲ひとつない青空が広がり、風もない穏やかな日だった。気温は低いがあちこちで梅や河津桜、水仙などが咲き誇り街は色づいている。沈丁花の香りが冷えた鼻先を掠め、苦沙味ひとつ、ふたつ、みっつ…止まらない。花粉症だ。もう何年も前から花粉症だが、特に去年と今年は酷い。これはまた闇医者で注射を打たねばならないか…。

闇医者というのはあくまでも個人の感想で、ふつうの開業医である。ただ場所がちょっと盛場すぎるのと、患者たちがだいぶアレなのと、先生自体が「細かすぎて伝わらないモノマネ」の時のノリさんにそっくりなせいでついつい「闇」と思ってしまう。花粉症の注射も私の行動範囲の中ではここしかやっておらず、それというのもナゾの副作用があるからだと思う。

ミニスカートでちょっと物憂げな看護婦が「副作用で注射跡が凹むことがありますよー」と事務的に言うとぷすりと針を刺す。YESもNOも選ぶ暇もなく二の腕にぷすり。今のところ凹んだことはないけど、いつか凹むのかもしれない。それでもいい、と思ってしまうほどその注射は効く。依存してしまいそう。そのへんもやっぱり闇っぽい。そしてクスリをたんまりくれる。

ここのところ倫敦の話を書いているので、20年以上も昔のことをよく思い出す。あの頃は花粉症なんて気がついていなかったな。60年代にはブタクサアレルギーが発見されているが、スギが騒がれるようになったのはいつからなのだろう。昔の人は寄生虫が常駐していたから花粉ごときにはいちいち反応しなかった、という説もある。

コロナ禍からインフルエンザ、花粉症のおかげでずっとマスク生活だ。ハウスダストアレルギーもあって、掃除するたびマスクをするような人生をずっと送っているから別に苦ではない。ただマスクをすると眼鏡が曇る。苦沙味をすると涙が出てますます曇る。眼鏡の曇り止めは買っても買ってもどこかへ行く。爪切りと耳かき並に使おうと思ったときにはいない。

昔の不良はマスクにシンナーを染み込ませたり、コーヒー缶にトルエンを仕込んであちこちでたむろっていた。公衆電話でブツをやりとりしていたが、今は公衆電話が珍しいぐらいだから無理な話だ。昭和のリアル不適切を思いながら花粉症に耐える。空は青いが眼鏡は曇る。何かと先行き不透明な2024年2月。これから政倫審を見る。腹立たしい事請け合いなので、信じられないくらい眼鏡が曇りそうだ。


#強風
#眼鏡
#花粉症
#マスク

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