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気になるコトバ

太古の昔から年寄りは若者の言葉や振る舞いが嫌いだ。いちいち勝手に引っかかっては難癖をつける。ヤングシニア一歩手前の私もついに最近の言葉への違和感に苛まやされている。

この間スマホの機種変に行ったら、ショップのお姉さんがやたらと「そうなんですねぇ…」と相槌を打ってくる。「防水がいい」「そうなんですねぇ…」「最安値プランがいい」「そうなんですねぇ…」。めちゃめちゃ寄り添ってくる感が凄い。親身になって同情してるぐらいの「そうなんですねぇ…」だ。私はDV夫やイジワルな姑についての身の上話をしているような気分になりながら新機種を決めた。そのあとプランの相談にあたった男性スタッフは、やたらと「なるほど」を連打する人で頭の中でずっとFUJIWARAの原西さんが「なるほどな、なるほどなるほどなるほどな」と踊っていた。まあ別にいいんだけど、本来「なるほど」は客や目上に使うものではないと言われていた。それが最近は「なるほど」を連打する若者が多い。誰がが「なるほど」を解禁したのか?原西さんか?

相槌はシンプルに「はい」でいい。間に間に「そうなんですねぇ…」や「なるほど」を挟んでもいいけど連打は良くない。「わかります」とか「ああ!」とか「おっしゃる通りで」とか相槌は山ほどある。これらを状況に応じて繰り出すことができたら真のビジネスマンであろう。

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以前、沖縄の人と話をした時、やたらと「〜しましょうね」と言われて当惑したことがある。こちらはてっきり「しましょうね?いいですか?」という問いかけかと思ったので「はい」とか「いいえ」とかいちいち白黒つけて相手を困惑させた。沖縄の「しましょうね」は言い方がソフトなだけで、最初から「しますよ」と決まっているのだ。方言のひとつとも言えるだろう。

沖縄の方言といえば「〜さぁ」と語尾につけるという特徴があるが、エリアなのか年代によるのか「〜ばー」をつける人達も多かった。「ダメばー」「知らんばー」といった調子だ。比較的新しい言い回しなのかもしれない。

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しばらく前から気になっているのが、料理番組などでよく聞かれる「〇〇していきます」だ。「煮込んでいきます」はわからないでもないが、「塩をかけていきます」などはどんだけかける気かと思う。「〇〇します」で良いではないか。この間はテレビでペヤングを作った(作るほどのものでもないが)素人の女の子が「それでは食べていきまーす🩷」と言っていた。
おぅ、食べていけよ。行くがいいさ。
食べ食べ大行進か。

もうこの言い方が流行って数年経つので違和感を感じる人も少ないのかも知れぬが、もうひとつ気になるのが塩味。いつから「えんみ」になった。「しおあじ」はどこへ行ったんだ。「えんみ」は何か恨んでる感じでイヤだ。脳内で勝手に「怨味」と変換してしまった自分の責任だが、どうにも耳に馴染まない。

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芸能人のやたらめったらなへりくだり文脈もお腹いっぱいである。〇〇さんと共演させていただいて、〇〇に出演させていただき…ぐらいまではわかるけど、〇〇を食べさせていただき、サーフィンをさせていただき、服を買わせていただき…って全部じぶんでしたことでしょ?何に向かってへりくだっているのか。そのうち犬を飼わせていただきとかイボ痔にならせていただきとか言い始めると思う。

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一時「ゆるふわ」という言葉が流行った時も違和感を感じた。いかにも男ウケを狙ったファッションや髪型。「キャリアウーマン」めざして女性たちが頑張る時代は過ぎ、「ゆるふわ」がやってきた…。そんな印象を持った。肩ひじ張って生きるより、誰かに頼る方が利口だよ…。そんな声を聞いたのは私だけだろうか。

そして今、どうにも耳が拒絶してやまないのが「若見え」という言葉である。若さへの執着は人それぞれであるし、若見え活動が楽しいのならそれはそれでいい。ただ「若見え」という言葉はあまりにも表層的だし、他者の目を気にするあまり「本人は楽しいのか?」ということが置き去りになっている気がするのだ。楽しいならいいけどさ、若さや活気は内面から輝くものではないだろうか。年を取ればなおのことその人の生活や人生が姿に現れる。そのへんを整えずに無闇に若作りしてもなぁ…ちぐはぐな感じになるんじゃないかなぁ。

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言い出したらキリがないけど、思えば自分もへんな言葉を使っていた。とんねるずの影響で「〜みたいなー」とか「〜してみそ」とか言っていたし、ダウンタウンが好きすぎてへんな大阪弁になっていたし、仲間内だけの言い回しというのも色々あった。「光る君へ」を見ていて紫式部の書いていることはさっぱり読めないし、話し言葉も実は全然違うのではないかと思う。書物と違って保存する術がなかったから今となっては謎だが、その時生まれ、そして消えていった話し言葉は星の数ほどあるのではないか。

今私たちが喋っている言葉も100年後の世界では違和感バリバリだろう。流行り言葉なんて数年で変わる。せいぜい気に入ったコトバを見つけて(あるいは作って)長らく生き残るように使いまくるしかない。ちなみにいま気に入っているコトバは「すきぴ」である。

#創作大賞2024
#エッセイ部門

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