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江ノ島の向こう側

きのう病院の帰りに江ノ島の裏側に行った。かなり体力のいるコースなので、それまでは仲見世でお茶をにごしていたが、きのうは行けそうな気がしたのだ。ちょこざっぷにも行ってるし。

朱の鳥居をくぐるとエスカーなる乗り物がある。単なるエスカレーターであるが江ノ島ではエスカーなのだ。以前は両側にレトロなお菓子の広告などがあって、それを見るのが楽しみだったが、今ではホログラムのような動画に変わっている。根性のある人は歩いて登ればいいが、私は絶対にエスカーに乗る。昔は歩いたこともあるが、今の私には江ノ島は登山だ。勾配の激しいウチの近所にもエスカーをつけてほしい。

エスカーを乗り継ぎ、頂上に着くとサムエル・コッキング苑という植物園がある。日本で3番目に古い植物園とのことで、当時横浜に住んでいたアイルランド人のサムエルさんが花や野菜を栽培していたそうだ。

そしてどこからも目立つ「江ノ島シーキャンドル」がある。ここからの眺望は見事だ。以前はもっと地味な感じで「パラシュート塔」が建っていた。元は多摩川べりで陸軍の降下訓練に使われており、二子玉川園の遊具だったこともあるらしい。

波の侵食でくびれた「山ふたつ」と呼ばれるあたりで食事をとる。「遊覧亭」という店。生シラスが美味しかった。シンプルなラーメンも昔ながらで美味しい。この時うっかりビールを飲んだことが後の苦しみにつながる。

ゴキゲンで「岩屋の洞窟」を目指すが信じられない急勾配の石段が続くあり様に酔いが醒めた。これは東京下町の店舗付き古民家の急階段の勾配ある。目の前では「オマエが来たいって言うから来てやったけどなんだいこのファッキン階段は!」とアメリカ人カップルが喧嘩をしている。その横を綺麗な薔薇の模様のサリーを着た女性が通るが、パンプスを履いてきたばかりに足が痛いらしく、先を行く旦那を睨んでいる。
これはうらめしい。

うんと小さい頃で記憶もおぼろなのだが、私はこの江ノ島の裏側に来たことがある。町内会か何かの行事だったのだろうか。当時は遊歩道も今みたいに整備されておらず、崖っぷちの道を歩かされた。昭和はワイルドだ。その時私は不思議なものを見た。巨大なアジの開きみたいなものが海に浮かんでいたのだ。近所のおばさんに「あれはなぁに?」と聞いたら「クジラじゃない?だいぶ腐ってるけど」と言われた。私は御生前のクジラとアジの開きが違いすぎてずっと悩んでいたけれど、今となってはありえない話でもないと思う。

洞窟へ行く途中でグッドルッキングガイみたいな人が灯篭に手をかけてポーズをとっていた。一人で来ているようだから別に写真用のポーズではなさそうだ。何をしても無駄にキマッてしまう人がいるもんだな、と思う。

洞窟に入ると寒く、ジメジメしていた。長いこと来ていなかったのは、この洞窟が何回か崩れたりして閉鎖されている期間が長かったからだ。露出している洞窟の表面はやはり崩れやすそうで、ネットやアクリルの屋根で保護されていた。インド人カップルは奥さんの機嫌の悪さが絶頂になっているようだ。足は痛いし、暗いわ寒いわで気持ちはよくわかる。

奥へすすむと蝋燭を渡される。肝試しのようである。グッドルッキングガイは蝋燭を持ってますますグッドルッキングだったが、屋根になにか石のようなものがガン!と当たって思ったより高い「イィィッ!」という声を出した。カエル化現象である。この地盤はやはり崩れやすいのだな…と思い、残りのコースはフードを被って回った。

洞窟は反対側にも延びているようだったが、疲れてしまってどうでもよかった。稚児ケ淵から渡し船があるので是非とも乗りたかったが、波が高くて欠航のようだった。しぶしぶ元来た道を戻るがほとんど登りである。気になってインド人カップルを探すと旦那がどこからかスリッパを取り出して彼女に勧めていた。「サリーに似合わないから嫌(想像)」とイヤがる彼女に旦那は辛抱強くスリッパを勧める。ついに折れてスリッパを履く彼女。ちょっとPTAみたいになりながらも元気に石段を登っていった。私はスリッパじゃなくて新しい膝が欲しいと思った。力士のサポーターの意味が今はよくわかる。

ヒーヒー、ゼーゼー汗びっしょりで階段を登った。途中食堂でコーラフロートを飲み、お店の人に道中の辛さを訴えると「ほんとにねぇ…」と深い同意をいただいた。あれが通勤路だとすると大変だな。コンビニに行くにも島をでなければならないのだから江ノ島に住む(特に裏側)ってかなり難儀だ。車どころかバイクすら入れない場所が多いのだから。

帰りは参道をそれて坂道を下った。残念なことにエスカーには下りがない。ひたすらに上を目指す野心家、それがエスカーなのだ。

江ノ島には日本中から、世界中からいろんな人が来る。海沿いを走っていれば必ず目に入る島影。富士山と重なる美しい景色は遥か昔から誉高い。私にとっては馴染み深い島だが、裏に回るとこんなに険しいとは。次はスイスイ登れるよう足腰を鍛えようと思う。

#江ノ島
#湘南

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