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マンガ紹介 「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」


「ルパン」という名前を聞いたことがない日本人は中々少ないだろう。もちろん、モンキー・パンチが世に送り出した天下の大泥棒のおかげだ。

しかし、その作中でもたびたび触れられるルパン三世の祖父、「アルセーヌ・ルパン」の原典に触れたことがあるという人は意外に少ないのではなかろうか。


 かくいう私もその一人だった。シャーロックホームズならば日本語版を何冊か読んだことはあるのだが、「ルパン」となると遠い昔に子供用の本を手に取った程度で内容もほぼ忘れてしまっていた。

 そんな私が偶然にも出会ったのが「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」だった。著者である森田先生は漫画という媒体で怪盗ルパンを21世紀に復活させると宣言するほどのルパンファンであり、その情熱が注ぎ込まれたこの作品に私はあっという間に引き込まれてしまった。


 まず何と言ってもルパンのキャラクターが良い。その用意周到かつ大胆不敵、ほれぼれするほどの盗みの技はもちろんなのだが、何より読者を魅了するのは、その生き方である。盗みの計画を立てる過程、警察との逃避行、名探偵との虚々実々の駆け引き。彼はそうした危険に満ちた日々を”楽しんで”いる。

 ルパンは確かに天才だが完全無欠というわけではない。実際本編中では何度も危機に陥っているし、名探偵ハーロック・ショームズに追い詰められることもある。しかしそうしたピンチにおいて、彼は恐れたり動揺することはない。ピンチこそは人生における最高のスパイスと言わんばかりに闘志を燃やし、あらゆる事態を切り抜けていく。その結果、何人たりともルパンを捕らえられない。誰も彼の自由を奪うことはできない。

 ルパンという怪盗は風のように自由であり、炎のように熱い漢なのだ。

 作中世界ではすべてのフランス国民がルパンの活躍に熱狂しているが、それは読者も同じなのだ。次はどんな盗みを見せてくれるのだろう。どんな驚きが待っているのだろう。 そう思っている時点で、私たちは己の心をルパンに盗まれているといっていいのかもしれない。

 もちろんルパンだけではなく、彼を取り巻く登場人物達も魅力的だ。それぞれの才知にたけたルパン一味。ルパンを追い続ける硬骨漢ガニマール警部。そしてルパンを幾度となく追い詰める英国の名探偵ハーロック・ショームズ。主役の輝きに勝るとも劣らない登場人物たちがルパンの世界を更に数段魅力的なものにしてくれる。

 この作品は漫画であるため、当時の風俗や文化、礼儀を視覚的にパッと理解させてくれることも特徴だ。文字では中々イメージしがたい当時に人々の生活、儀礼といった細やかな要素を絵で表現してくれるため物語の世界にすっと入っていける。森田先生が丹念な考証の末に描き出す19世紀~20世紀のフランスは、日本人の我々にとってはなじみ深いとは言えないはずなのに優れたリアリティを感じられる。漫画という媒体の強みを活かし切っているといってもいい。


 誰もが知る大怪盗・アルセーヌ・ルパン

 彼のことを知りたいという方は、まずこの「アバンチュリエ」からルパンワールドに足を踏み入れてはいかがだろうか。


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