ヴィヴィアンの指輪

伊藤くんとは、大学1年の夏くらいから卒業するまで、ずっと付き合っていた。たまにわたしが不機嫌になってケンカすることもあったけど、互いに刺激を与えあえる存在で、仲は良かった。あるとき、伊藤くんが、どこからか、ゴソゴソと指輪を取り出して渡してくれた。ヴィヴィアンの指輪だった。ベッドの上で飛び上がるくらい嬉しくなって、お揃いで、ずっと左手の中指にはめていた。

わたしは大学に入ってからも、たまにblueに通ってたし、マニアックラブやイエローにも行ってたし、ダンスミュージックで踊ることが、大好きだった。

一個上の先輩方で、DJをしてる人たちがキャンパスには何人かいて、わたしはすぐに彼らと仲良くなった。一緒にクラブに行ったり、MLに入れてもらって、サークルで小さなイベントをやったりした。

1年生の冬、伊藤くんと一緒に彼の友達の部屋に遊びに行って、こたつでゴロゴロしてるとき、わたしは、キャンパスをクラブにしたい、と思った。その話を伊藤くんにしたら、面白そうだからぜひやろう、と言ってくれて、そこから、先輩達に声をかけて、学食が閉まったあと、サウンドシステムを入れてDJイベントをやることにした。

わたし達は、この壮大な計画の始まりに、ワクワクが止まらなかった。

SFCは、24時間どこかしらの部屋が空いていて、インターネットを常に利用できる環境だった。1996年にそんな大学は一つもなく、間違いなく、最先端で、わたし達だけ違う世界にいた。

しかも、宇宙基地と揶揄されるくらい、キャンパスは僻地にあって、隔離された環境だったから、大学に寝泊りする人も少なくなかった。だからみんな、何かしらキャンパス内で遊べないかと、楽しみをみつけることに必死だった。

みんなきっとたくさん集まる。伊藤くんが、このイベントのフライヤーをデザインするのを横で見ながら、わたしはそう、確信した。



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