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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか33】最初の一週間(5)街なかの移動

 車がないといっても、大抵のところは歩いて行ける。アパートの目の前にトラムの駅があるので、街の中心部に出掛けて疲れたとか荷物が重いとかいうときにはトラムで帰ってくることもできる。

 トラムとバスは、ボルドー市のTBM=Transports Bordeaux Métropoleが運営している。ここのアプリをスマホに入れて、10回分の料金をクレジットカードで入金する。旅行者用の一日券とか、一週間券とかもあるらしい。勿論、乗るたびに切符を買うこともできるようだ。日本のような通勤・通学定期があるかどうかはまだ確認していない。
 乗るときには、アプリを開けて「Ticket」を押すと、自分が買ったチケットがあと何回分残っているかが示される。人数を選択した上で、「validate」に進み、車内にある機械にタッチすると、ブルートゥースさんが働いてくれて、支払い完了。1時間以内なら、何度乗り換えても同じ値段だ(乗り換えのたびにvalidateは必要)。ときどきvalidateが機能しなくてむちゃ焦る。そのままだと払わずに済んで、無賃乗車になってしまう。今までに誰にもチェックされたことはないが、娘によると、稀に車内に係員が回ってくることがあるらしい。
 このアプリは、どこへ行きたければどの路線に乗って、ここで乗り換えて、とか、次のバスはあと何分とか、遅れがあったときのアラートとか、レンタル自転車の予約とか、いろいろな機能がある。英語で使えて便利だ。まずは娘夫婦の家と、娘が出産する予定の産院の住所を登録しておいた。因みに、レンタル自転車とレンタルキックボードが主要な駅などにある。

 しかし、基本は歩きだ。仕事を辞めて以来、毎日よく歩いて鍛えてきた。そもそも通勤だって、職場の最寄り駅まで片道20分を毎日歩いていた。私は運動音痴だが、丈夫ではある。スマホが使えるようになり、Googleマップさんに助けられて、一人で外出することができるようになった。娘の出産前後には婿も産休を取るはずだが、念のために、私が一人で買い物ができるようになっておきたい。
 いや、それは口実で、新生児が家にいるようになったら観光も難しいだろうから、その前にお出かけしたいわけです。だって、ヨーロッパの、特に中世、近世の建築は大好物なんですもん。ワイン好きであればボルドー郊外のワイナリーに行きたいところでしょうが、私は市内中心部の教会等に行きたい。そして、行くべき建物、見所が幾つもある。

 観光案内所でもらったボルドー市内+郊外の地図を眺めると、興味深い発見がある。先日、娘の検診で訪れた病院の近くには「ロベスピエール通り」という道があることに、あとで気づいた。ボルドーはアキテーヌ地方ジロンド県の県庁所在地で、フランス革命の時には、この地方出身の穏健共和主義者たちが「ジロンド派」と呼ばれた。市内には、ジロンド派のモニュメントもある。ロベスピエールは、ジロンド派を弾圧した急進共和主義=ジャコバン派のボスだ。なんでまたボルドーにロベスピエール通りがあるねん。どうして名付けられたのか、それとも、あのロベスピエールとは関係ないのか。こういう疑問を見つけると、それだけでわくわくする。
 ついでに言うと、「フランクリン・ルーズベルト大統領通り」っていうのもあって、これはきっと、フランスがナチスから解放されたときのアメリカ大統領を記念してって事なんだよな。街のあちこちに、ナチに対するレジスタンスを記憶するものがあるから。

 産休に入るまで娘夫婦は昼間は仕事だ。娘は在宅勤務だし、婿の職場は通りを挟んだ向かいの建物だが。
 私は、私の時間を自分で充実させなければいけない。ぼんやりネットの動画を眺めるだけにならないようにしなくては。せっかくの時間が勿体ないからね。「どこに行きたい?」と聞かれて「ここに行きたい!」と答えるのはともかく、「ここへ連れて行って」とか、最悪「どこか連れて行って」とか言うことのないようにしたい。自分で動く、自分の好奇心は自分で満たすことを肝に銘じ、小さなリュックに財布とハンカチ、鍵、手帳と折りたたみの傘、水筒を入れて、スマホと帽子も忘れずに、毎日、今日はここまで行ってみる、と決めて、せっせと歩く。

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