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「名もなき家事」をスウェーデンから考える

(2018年6月21日のブログ記事を転載、編集したものです)

スウェーデンの家事分担のチェックリスト

先日、入居しているコワーキング・オフィスでのスウェーデンの夏の到来を祝うパーティーで「そういえば、最近家事に関するおもしろいリストを見た」と教えてもらった。その『平等な一日のためのチェックリスト』には、84ほどのタスクがリストアップされており、どのタスクを家族の誰がどれくらいの頻度で行っているかを記入できるようになっている。

基本的な使い方は、2016年に日本で話題になった「AERA共働きの家事育児100タスク表」と同じで、お互いがそれぞれ行っている仕事を把握し、状況をよりよくするためのディスカッションを促すというツールだが、リストが作られた背景とタスクの内容が少し異なるので紹介したい。

家族内タスクの不均衡は社会的な損失だ

まずスウェーデンのチェックリストは、住民医療を担当する地方行政機関リージョン・スコーネ(Region Skåne)が、①病欠者を減らし、②子どもの「よい環境で健康に育つ権利」の促進を目的として提供されている。

育児や家事を公平に分担し育児休暇もより均等にとっている親は、離婚率やカップル間の所得格差も低く、またストレスから疾病休暇を取る人(これは特に母親に多い)も低いという研究結果がでている。更には、この土壌が子どもの心身の健康を促進するという研究結果もでており、チェックリストはこのエビデンスを受ける形で作成されている。

スウェーデンでは医療費や社会保険費に関する運営は国民の税金を預っている行政の責任なので、家族内不均衡を是正することにより全体としての社会的費用を抑えるという一環の流れが見えてくる。母親だけが長く育児休暇をとることが夫婦間の所得格差に繋がり、それが将来的な年金受取額格差として反映されてしまうことも行政は改善していく必要がある。

本当の「名もなき家事」とは?

細かい項目を見るいくとスウェーデン版では「所得を伴う仕事」「所得を伴わない仕事」でカテゴリー化されているがこの2つは同等扱い。特筆すべきは実行したことが誰にでもわかる「実際に実施するタスク」以外に、「ニーズを把握」したり「実行計画を作成」するタスクの重要性が強調されていることだ。

タスクを「実施」する具体的な掃除や炊事といった行動は目につくものの、一番難易度が高いとは限らない。家庭を企業に置き換えると、現場の作業工程を担当する社員と比べて、経営計画やプロジェクトの推進計画、運営管理を行う経営者・責任者のタスクのほうが、難易度が格段に高いのは明白である。

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日本で「名もなき家事」が語られる時には、子供の持ち物を揃えてすべてに細かく名前を書いたり、ゴミをきちんと分別したりといった日常の細々した際限のないタスクへの言及が多いように思うが、今、家庭内で見える化が必要で、かつ多くの母親のイライラの原因になっているのは、この家庭運営の要となる「ニーズの把握」や「実行計画」部分の重要性が見過ごされ、タスクとして認識されていないところにあるのではないだろうか?

ちなみに、パパたちの家事・育児参加先進国として世界から一目おかれているスウェーデンだが、やはり母親への負担が大きいことはこのようなリストが存在することでも明らかだ。

ただし家事全体の総量は

・ 洗濯はまとめて週に一回くらい
・ 食洗機はほぼどの家庭にもある
・ ゴミの出し方は複雑でも煩雑でもない
・ お風呂は基本的にはいらず朝シャワーだけがほとんど

といったレベルなので、日本に比べると格段に少ない。ひとつひとつのタスクが単純で切り分けしやすいことも、家庭内で無理なく分担していく際には重要な側面となる。

さて、これらスウェーデンの状況から考えてみるとこれからは日本でも「家事ニーズの把握」や「家事タスクの実行計画」を「名前のついた家事」として認識していくべきだろう。これらの重要な「仕事」を見える化しタスク分配を行っていくと、今多くの人が感じているストレスやイライラが少しは減るかもしれない。

タイトル画像クレジット・Susanne Walström/imagebank.sweden.se

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