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原子力発電所の終活

(2018年8月16日のブログ記事を転載、編集したものです)

バーセベック発電所

2030年までに2基の原子炉を廃炉にし、敷地内の建屋を含む30ほどの建設物をすべて解体して更地に戻す作業が始まっているスウェーデン南部にあるバーセベック原子力発電所。

その廃炉・解体の過程の撮影を許可された写真家のクリストファー・グラナット(Kristffer Granath)の最初の半年間の印象的なスライド動画がYoutubeで公開されている。バーセベック発電所はスウェーデンの首都であるストックホルムからは600kmほど離れているが、隣国デンマークの首都コペンハーゲンからは直線距離で23km、私の住むスウェーデンのルンド市からは18km離れた場所にある。

早くも1980年に実施された国民投票で原子力発電所の段階的な閉鎖を決定したスウェーデンも、産業界や組合の反対、更には原子力に代わる代替エネルギーの確保などの問題から、その後国の方針も変わり具体的に廃炉が決まったのは当時全国に12基あった原子炉のうちバーセベックの2基だけだ。

原子力発電の新規設置計画はないものの、現在スウェーデンの電力供給量の40%を占める原子力は、今後も化石燃料に頼らない時代の重要な電力源としての役割を担っている。

閉鎖には約600億円と14年の歳月が必要

バーセベック発電所は国民投票の後も稼働を続け、1号基の「ソフィア」が停まったのが1999年。「ベングト」の愛称を持つ2号基は2005年まで稼働していた。具体的な廃炉作業は2016年に始まったばかりで、稼働時には450人が働いていた広大な敷地内で、現在は50人の専門家が冷却水の管理やプラントのセキュリティ管理などに携わっている。

解体はこの先、2030年まで50億クローナ(約600億円)かけて行われる予定で、解体作業に必要な技術の専門家を今後数百人レベルで雇用する。

また廃炉と解体作業に伴い排出される使用済み核燃料と核廃棄物は、最終的にはストックホルムの北に位置するウプサラ市郊外のフォルスマルク原子力発電所の山間部に建設予定の最終処理場へと運ばれることになっている。

何が原子力発電にとって変わるのか? 

各国のエネルギーの供給事情はその国の地理的、歴史的背景に大きく左右されている。

スウェーデンは化石燃料に乏しく水資源に富んでいたため、二酸化炭素排出につながる化石燃料による発電はほぼ行っておらず、共に約40%ずつを供給する水力発電と原子力発電に依存している。残念ながら太陽光発電はあまり開発がすすんでおらず、再生可能エネルギーとして一番開発されているのは風力発電だが、現在でも全体の7%程度を占めるにすぎない。

スウェーデンのエネルギー分野における最大目標は、2040年までに達成を目指す「カーボン・ニュートラル」だが、地球温暖化を現実の問題として全員が意識したであろうこの夏、スウェーデン人のエネルギー政策に関する意識は変化したのだろうか?

(追記・このブログを書いたのは2018年だが、2019年の調査では原子力賛成派が増えている。下の記事を参照されたい)

この夏の異常気象を考えると、水力や風力の再生可能エネルギー発電が併せ持つ供給の不安定さと共にこれからのエネルギー政策を考えていくのは並大抵の課題ではない。私たちの未来に思いをはせれば、人けのない発電所の広大な敷地で撮影を続けるクリストファーの下記の言葉に希望を託したくなる。実現するには私たち一人ひとりが何を考えていけばいいのだろうか? まずは自分のエネルギー消費について考えてみるなど、問題意識を持つことから始めてみよう!

「70年代にこれほど巨大で複雑な建築物をつくれた当時のスウェーデン人の知識と技術に驚愕した。自分たちの世代が同じことを再生可能エネルギーの分野でできればいいと思う」
・バーセベックに関する概要、クリストファーへのインタビューはSydsvenskaの以下の記事から参照、抜粋・抄訳した。
Se Barsebäck från insidan – snart är allt väck - Sydsvenskan
・スウェーデンの電力事業、電力事情に関しての日本語の情報は以下のサイトがよくまとまっている。
スウェーデンの電気事業 - 海外諸国の電気事業 | 電気事業連合会
・スウェーデンの現在のエネルギー政策などについてはこちらをどうぞ。
Agreement on Swedish energy policy - Government.se

タイトル画像クレジット: Per Petersson/imagebank.sweden.se

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