戦慄の父娘①

春音(はるお)が生まれたのは、昔鉄道で栄えた地方都市の比較的恵まれた家だった。
両親は共働きで父の生家で祖父母と同居。母方の祖母は育児に協力的な、時に厳しくも自愛に満ちた女性で、春音は様々な大人たちにかまわれながら成長した。

父方の祖父は、春音に妹の秋(あき)ができる前に亡くなった。優しい爺さんだったと記憶しているが今では顔もハッキリ思い出せない。そのくらい春音はまだ小さかった。

祖父が亡くなったあとが、春音の家は良くなかった。
人の葬式のときにしか来ないくせに当たり前のように親戚面する輩。
幼い春音に刃物を向ける、自ら家を出ていったくせに図々しく感情的な叔母と、その叔母を甘やかしすぎる父方の祖母─言うまでもなく父と叔母の母─。

春音は、幼少期、義務教育の間と、この父方の祖母と一緒にいる時間が一番、長かった。その影響が後に自身の娘との戦慄の間柄をつくってしまったのやもしれない。

祖母は、一言で言うなら自己中なのだ。

相手が大人こども関係なくわがままを発揮する。自分のためなら平然とウソをつくし、自分の意にそまぬことがあれば誰それ構わず罵る。
そんな祖母に、父も母もいつも心を痛めていた。特に父は祖母の性質を常に受けて育っておりわがままや気性の荒さは受けついでいたが、幸いにも父にはその上の曾祖母がおり、また祖父も長男であった父を可愛がり守ってくれたおかげか、歪みは比較的少なくて済んだように思う。

─いや、春音の父だって相当歪んでいる。
春音の娘に対して、まだ幼い時分に心が血を流すほどの傷を与えるような、虐待と言える態度を取ったことは間違いないからだ。

暴力というようなことは少なかったが、春音の娘が実の父である春音や春音の父から浴びせられた言動の数々は、彼女の心に常に擦り傷をつけ続けた。

幼少の頃からこれであったから、娘は後の思春期でついに心が悲鳴を上げたのである。
傍から見れば家庭内暴力という形をとるに至る。

分かりづらいと言われてきた、心理的・精神的虐待の典型例ではなかろうか。

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