小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-12
第1話 SCENE 4-④
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「それじゃあボクは失礼するわ。すずりちゃん、あとはよろしくね」
「え? あ、はい……」
突然立ち去ろうとするXだが、当然私は納得がいかない。
「待ってください! 説明がまだ───」
Xに詰め寄ろうとしたが、体が動かない。
ここに来たときと一緒だ。
この私以外の意思に体が支配されているような感覚……。
「忘れているのなら尚のこと、この場所で思い出して頂戴。
もう時間がないのよ、この博物館も、そしてキミ自身も……」
Xはそう言い残し、建物の奥へと消えていった。
と同時に私は体を動かせるようになったが
見えない力にあらがっていたせいか、筋肉はかなり疲弊していた。
私はそのまま、さっきまで寝かされていたベンチに力なく腰を落とした。
エントランスロビーに再び鼓膜を突くほどの静寂が訪れる。
「あの……館長様?」
すずりが不安げに私に声をかけた。
「だから私は館長じゃないんですって……」
私の心ない一言にすずりも黙り込んでしまった。
彼女からすれば、さっきまで親しく談笑していたXと、
好意を向けていた私とが、突然言い争いのようなものを始めて
険悪なムードのまま別れたように見えたのかもしれない。
それに、終始マイペースだったXに対し、
私だけが翻弄されているように見えたかもしれない。
極めつけに無職であることがバレてしまったし。
なんにせよ、
この10分かそこらで彼女の私に対する評価は地に落ちたことだろう。
「………館長様、これをどうぞ」
そう言うすずりの方を力なく見やると、すずりは
鮮やかな青色の花を数輪束にしたものを手に持っていた。
見た事はあるかもしれないが名前はわからない。
しかしその花や葉、茎のそれは不思議なほどに鮮度が高く、
まるで”たった今摘んできた”かのようなみずみずしさを讃えていた。
<⑤に続く>
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