小説【博物少女 ヒロメリエ!】#0
第〇話『プロローグ』
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ここはとある博物館内に併設されているちいさなレストラン。
『チリィ──……ン』
日当たりのよい窓際のいつもの席で、
わたくしは小さなハンドベルを鳴らします。
しばらくすると、お店のウェイトレスさんが
大好きなショートケーキを運んできて下さいます。
「いただきます。」
適切な温度で管理されている事がすぐわかる口当たりのよさ。
お口のなか全体に幸せな空間を演出するふわふわ生クリームさん。
噛んだ瞬間ほどよい酸味と甘みの果汁が飛び出してくる新鮮なイチゴさん。
そして全ての素材を陰ながら支えつつも確かな存在感をしめすスポンジさん。
“ケーキタイム”は、わたくしの中でもっとも大切なひとときです。
「ごちそうさまでした。」
ケーキを堪能したあとは入り口のレジカウンターに
代金を置いて、一礼してお店を出ます。
季節は、早春。
桜の花びらを散らせる風はまだすこし冷たいですが、とても穏やかな庭園の昼下がり。
敷地内の生け垣も陽光に照らされキラキラと輝いています。
ベンチに腰掛け、読書をしているひと
スマートフォンで自撮りをしているひと
小冊子を片手に、お目当ての展示物の元に向かうひと
来館者の皆様も、思い思いの時間を過ごしていらっしゃいます。
わたくしは、この穏やかな時間の流れる博物館が大好きです。
<第1話に続く>
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