小説【博物少女 ヒロメリエ!】#1-13
第1話 SCENE 4-⑤
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「……その花は?」
「カキツバタと言います。わたくし、このお花が大好きなんです」
そう言うすずりの表情はとても柔らかかった。
疲弊と苛立ちで眉間にシワの寄りまくってる私の顔とは
対極にあったもので間違いない。
すずりは静かに目を閉じ、ゆっくりと息を整えた。
すみのゑの あささわをのの かきつはた ころもにすりつけ きむひしらずも
(住吉の 浅沢小野の かきつはた 衣に擦り付け 着む日知らずも)
「……万葉集に出てくる和歌です」
「この和歌は──
あの住吉の浅沢に咲くカキツバタをこすり染めて出来た衣装を
私の妻になる人が着る日はいつだろうか
──と、幸せな日々を待ち焦がれる人の心情を歌っています」
「カキツバタの花言葉である『幸せは必ずやってくる』は
この和歌から取られました」
「それにカキツバタのこの花びらの形。
どことなくツバメが羽根を広げて飛んでいる姿に似ていませんか?
漢字では燕の子の花と書いて燕子花(かきつばた)と読んだりもします」
「ツバメは古来より幸福を運んでくる鳥として、
軒先に巣を作ると縁起が良いとされてきました」
「ですから、このカキツバタで館長様にも幸せはきっと訪れます!」
すずりは顔を紅潮させながら美しいカキツバタを
私にプレゼントしてくれた。
<⑥に続く>
<前回>
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