見出し画像

憑依(2018.10)

紅茶に浸したマドレーヌでも
酸っぱくて苦い溶接の火花でも
なんだっていいのだが
それをよすがに湧きたってくる
たいていは厄介な思い出を
深々と打ち消すために
日々静かにたたかっている
それなりに壮大なる人生を
こっそり繰りひろげている
昼間の公園で 夜の学校で
桜の花の匂いが
降りしきる花びらが
わたしに思い出させるのは
誰かが風に刻んだ記憶
わたしではない誰かが
この木の下で泣いたのだ
紅茶の中でほろほろと
崩れ落ちるマドレーヌ
耳にも熱い溶接の火花
かつて川だった道を
桜は忘れていないから
誰かの風がめぐるたび
わたしに涙を流させる

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?