見出し画像

左ききの麗子

  1. お茶を始める

高校の教室。

武史、麗子がノートを写している所を見ている。

男女共学の学校。
1年C組。
一時限目が終わり、休み時間が始まっている。

武史「麗子、なに冴子のノート、写してんだよ?!
   さっきの物理の時間、寝てたろ!
   一時間目から寝るなよ!」

麗子「違うの。泣いてたの」

武史「何で?」

麗子「左利きじゃ、茶道のお免状、出せないって、
   昨日、言われたの」

武史「"裏千家"なの? "表千家"なの?」

麗子「"裏"」

武史「"表千家"でも駄目なの?」

麗子「知らない――でも、"裏"のお免状が欲しいの!」

武史「ふーん。でも、今、右手で、ノート、写してんじゃん」

麗子「あっ! あーーーっ」
と言い、麗子、シャープ・ペンシルを持った右手を、空中で、
2、3度、振る。
「本当だ、右手で書いてる!」

武史「努力すれば、いけるんじゃない?
   始めたら、続けろよ」

麗子「努力すれば、できるかもしれない…。
   でも、字を書くのは、小学生の時に矯正されたから、
   できるようになったんだと思うけど…」

武史「やってみてから、結論、出せよ!」

麗子「わかった! 休部届、撤回してくる!」
と言って、席を立ち、教室を走り出て行く。

武史「あーあ、これで、もし、お免状もらえなきゃ、
   オレの責任だな」
と言って、画面から出る。
画面に誰も居なくなる。

2.明日、カラオケ

男女共学の学校。

1年C組。
休み時間。

武史「明日、お師匠さんが来るんだろ?
   あさって、カラオケに連れてってやるよ。
   明日で疲れまくるだろうから」

麗子「ホント? うれしい!」

冴子「アタシも連れてってくれるの?」

武史「冴子も、連れてってやるよ」

冴子「もちろん、武史くんのオゴリね?」

武史「もちろんだ」

冴子「でも、武史くん、歌下手だからなー」

武史「嫌なら、連れてってやんないぜ!」

冴子「冗談よ。連れてって!」

麗子「あー。明日のことを考えると、頭が痛い!」

お茶室。

浜木綿子みたいなお師匠さん。
実は、浜木綿子。
「麗子さん、
 さっきから、何度、お湯をこぼしたら気が済むの?
 左利きだからって容赦しないわよ」 

麗子「すいません!」

師匠「『すいません』っていう日本語はありません。
   『スミマセン』」

麗子「すみません。
   (明日、カラオケ)」

師匠「何つぶやいてるの?
   おまじない?」

麗子「こんなこと言っていいのかな?
   明日、カラオケに行くんです」

師匠「何だ、そんなこと。
   明日の楽しみってやつね」

麗子「そうです」

師匠「だったら余計、今日がんばって!」

麗子「わかりました!
   (明日、カラオケ)」

師匠「また言ってる。
   茶せんは、
   100回は練習してもらうわよ」

麗子「やります」

師匠「がんばってね、
   明日カラオケなんだから」

麗子「(明日、カラオケ)――です」

3.今日は、カラオケ

朝。

学校へ向かう麗子――。
自転車に乗りながら、
「今日、カラオケ」
とつぶやく。

1年C組。

1時間目が終わってからの、休み時間。

冴子「物理の時間、何やってたの?」

冴子、麗子のノートを覗き込み――
「泣いてたかと思ったら、
 今度は、内職?」

麗子「今日、カラオケで唄う曲を、
   書いてたの」

冴子「すごい曲の数!」

麗子「へへぇ、すごいデショ?」

冴子「武史くんのオゴリだから、
   1時間しか唄えないわよ」

麗子「次の時間に
   ピックアップする」

夕方。
カラオケボックス。

冴子「一曲目、何、唄う?
   麗子、一曲目、唄いたいでしょ?」

麗子「唄いたい。
   中森明菜の『DESIRE』!」

冴子「『DESIRE』ねー。
   麗子の今の心境ねー」

麗子が、『DESIRE』を唄いだす。
音声は聴こえない――。

武史「次は、俺が唄ってやるよ。
   久保田利伸の『PSYCHIC BEAT』を入れて。
   麗子にパワーを与えてやる――」

『PSYCHIC BEAT』を唄いだす武史。
振り付きで唄っている――。

冴子、拍手をしながら――
「ナイス、武史くん。
 次は、私ね。
 『聖母たちのララバイ』を入れて。
 『疲れきった』麗子に贈ります!」

『聖母たちのララバイ』を唄う冴子。

麗子、唄い終わった冴子に、
「ありがとう、冴子」

麗子・武史・冴子が、
熱唱している――。
音声は聴こえない。

電話がかかってくる。

冴子「あと一曲。
   とうぜん麗子ネ!
   何、唄う?」

麗子「『学園天国』!」

冴子「そう来ると思った!
   キョンキョンのほうね」

麗子「『Are you redy?』」

冴子と武史「Yeah!」

踊りながら唄う麗子。
音声は聴こえない――。

麗子「『ヘイ』のところ
   “左手”、突き出して唄っちゃった。
   マイク、右手で持ったのが、間違いだった。
   どうしよう?」

冴子「もう時間よ」

麗子「うーん、もう一回、唄う!」

武史と冴子「ダメ!」

4.ライバル登場

朝。
1年C組。

ホームルーム――。

担任の先生が、転校生を連れて、やって来る。
女の子だ!

あかり「今度、忍ケ丘にリハウスして来ました、三日月あかりです」

担任「それだけか? もっと喋れ」

あかり「あかりは平仮名で"あかり"です! 
    茶道部へ入るつもりです!
    なお、私は、左ききです」

麗子、口をポカンと開けて驚いて聞いている――。

休憩時間。

武史と冴子が、三日月あかりの噂ばなしをしている。

武史「麗子の強敵が現われたな。しかも左きき」

冴子「確かに麗子の強敵ね。しかも左きき」

武史「どうなることやら!」

放課後。

お茶室。

あかりが、お茶室へ来て、
あかり「茶道部へ入部したいと思っています」

麗子「後で、部長に紹介するわ。座って待っててネ」

あかり「わかりました」

麗子「三日月あかりさん、私も左ききなの」

あかり「えー! 
    左ききでも、茶道をできる?」

麗子「左手は、利き手としては、使えないわよ」

あかり「えー! 困るー。
    でも、私は、やってやる!」

麗子「私も、負けないわよ」

あかり「麗子さん、共に健闘いたしましょう!」

麗子「何言ってるの? 
   "選挙カー"じゃないんだから…」

5.あたしのペース

放課後。

お茶室。

部長と、あかりと、麗子がいる――。

あかり「部長、私なりの練習方法で練習してもいいですか?」

部長「いいわよ。それで上手くなるのなら――」

あかり「それなら、そうしますっ!」

麗子「三日月あかり、右手の使い方が、どんどん上手くなって行く!
   どうしよう。
   私、負けそう!」

1年C組。

休み時間。

冴子と武史が、話している。

麗子はいない。

冴子「三日月あかりが、どんどん上手くなってるらしいわよ、武史くん――。
   独自の練習方法で。
   お湯を、一滴もこぼさなくなったらしいわよ、右手で」

武史「そうらしいな。
   でも、今は、麗子を見守るしかないよ、俺たち」
   
冴子「そうね。そう言われれば、そうね。
   あたたかく見守ろう!」

昼休み。

食堂。

冴子「どうしたの? 麗子。
   晴れ晴れした顔して。
   もっと、落ち込んでるのかと思った。
   三日月あかりに先を越されて…。
   三日月あかりに負けないでね!
   三日月あかり、"筋トレ"してるらしいわよ、右腕の」

麗子(冴子は、そう言うけれど、私、三日月あかりに負けてもいい――。
   あたしは"センス"で勝負する!)

麗子「もういいの、あたしは、
   あたしの
   ペースで行く!」

6.お茶の本筋

1年C組。

休み時間。

麗子と武史が喋っている――。

武史「ライバルが出現して、
   疲れたろ。
   また、カラオケに連れてってやるよ、麗子」

麗子「もういい!」

武史「え、何で?」

麗子「これから、"お茶"そのものを、
   楽しむことにするの」

武史「ふーん…」

麗子「それが、"お茶の本筋"だと思うから」

武史「よっ、麗子ちゃん! 
   よく言った。
   カッコいいよ!」

ここから先は

1,067字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?