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奥歯を失った夏の終わり②~ゴッドハンド先生のこと

去年の夏のこと。

昔治療して、銀歯を被せてあったところが
虫歯になっていた。

神経は取ってあって、
虫歯の自覚症状がなかったけど

根っこが炎症して歯茎が腫れて
近所の歯医者さんで診てもらったら
もう歯を抜く段階まで進行している、ということが発覚した。

さほど深刻に思ってなかったもんだから、本当に驚いた。

子供の頃、顎の大きさに比べて歯が大きく歯並びに影響があると言われ、健康な歯を何本か抜いたことがある。大人になって、親知らずも4本抜いた。

『歯を抜く』ということは、初めての経験ではない。

とは言っても、これまでは、抜いたほうが良い歯、抜いても支障ない歯、という認識だったし、抜くまでは怖くて、抜いた後は痛くて不便だけど、抜いてしまったら、あとは自然に治癒するのをただ待てば良かった。

だけど、『奥歯を抜く』というのは、今までとは違う。

ああ、なんということ…もう取り返しがつかない、この先、わたしはどうなってしまうんだろう…と、不安で頭の中がいっぱい。

抜いた後はどうなるのかな…

部分入れ歯は、手入れが面倒くさいと聞いたことがあった。インプラントは骨にボルトを埋め込むらしい。想像しただけで怖い、怖すぎる。
保険が効かないからお金もかかるけど、なにより手術が恐ろしい。

こんなおおごとになるのなら、はじめからゴッドハンドのところに行っておけば良かった…

2年前に、親知らずが虫歯になり、顎が腫れて痛くて痛くてどうしようもなくなった時、南房総の歯医者さんではすぐに抜いて貰えず、半べそで駆け込んだ時も、その場で抜いてくれた。 

ゴッドハンド先生は、10年くらい前から通っている、わたしにとって安心と信頼と実績のご高齢の先生。

結婚を機に、南房総に移り住んでからは、高速バスと電車を乗り継いで2時間半、気軽には通えない距離になってしまった。交通費は往復6,000円。正直、行くだけでお金も時間もかかる…

だけど、背に腹はかえられぬ。

電話で受け付けの方に事情を説明したら、どうぞ来てくださいとのこと。なかなか予約が取れない歯医者さんもあるけれど、ゴッドハンド先生のところはすぐに診てくれるのが本当にありがたい。

わたしは小さい頃から歯医者さんが怖くて怖くてたまらなかったんだけど、ゴッドハンド先生は全然、怖くない。

治療室の椅子に座って、自分の番を待っている時間、おそらく近所のおばあちゃん達が定期検診に来ているのか、これまでに幾度も繰り返されてきたであろう、「はい、こんにちは」「調子はいかがですか?」「今日は暑いですね」などの挨拶や、何気ない会話を聞いていると、安堵感に包まれる。

もちろん、腕も確かだ。迅速かつ、的確な判断で、手も早い、それでいて時間を惜しまず患者さんに寄り添って治療をしてくれるし、ちゃんとこちらの状態を気づかってくれる。

すごく丁寧な、おねえ系みたいな口調でゆるませてくれつつ、特別なことは言わない、先生が話すのは、歯医者さんとして、当たり前の、至って普通のこと。

長く医師を続けていくと、こんなふうに超越した在り方になるのかなぁ…なんて、先生の歯科医師人生に想いを馳せてしまう。

わたしの夫は田んぼの指導を生業にしているが、ゴッドハンド先生のような先生になって欲しいなと勝手ながら思っている。

(つづく)

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