書について【国宝展に行ってきた】

私は字をうまく書けない。
昔から集中力がなく書写が大の苦手だった。
当然、国語の漢字ドリルも嫌いだった。
というのも、習字は一度気を抜いたら筆が曲がりダメになる。
漢字ドリルも灰色の線から鉛筆からはみ出せばダメになる。
子供ながらに取り返しのつかない失敗というものを字は与えて来るのだ。
油性ペンで名前を書く時、ボールペンを使う時、水性ペンを使う時
元から神経質なところがある私はうまく書けなかったことが許せない
そして自分が書いた下手な字が上履きやリュックにつきまとってくるのが嫌だった。
だからだんだんと字というものに反発するようになった。
板書も一々綺麗に書いていたのでは授業に追いつけなくなる。
なので自分さえ読めればいいという気持ちで書くようになった。
元々左利きということもあり、汚くても仕方ないという周りの目もあったかもしれない。

しかし大人になってからはそのつけが回って来るようになった。
ミミズのような字では相手に通じなかった。メモや手紙や履歴書など人に自分の字を見せることが何かと多い。そうなると綺麗な字が書ける人と自分をだんだんと比較するようになった。
字が上手いというだけでその人がさも立派であるとか教養があるとか何かとプラスなイメージを抱かれることがある。仕事もできそうな気がしてくる。
このデジタルな世の中において未だにペーパーレス化が進まないのは「字」への信仰があるからだと私は思っている。「字」がその人の人格すらも反映しているという幻想を漢字圏の人間は持っているのかもしれない。

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