不思議なおばさま
私の住まいのすぐ近くにはバス停がひとつあって、普段は歩いて駅まで行くのですが、ごくまれにここからバスに乗って行くこともあります。本当に時々ノリで乗るくらい。ノリで乗りますが、乗る時はいつも決まった時間です。すると、その時に必ずとあるおばさまが続いて乗ってくるのです。豊かな白髪のボブカットの、とてもお上品なおばさまです。
とにかく必ず絶対に乗ってきます。『あれ?今日は乗らないのかな?』と思っても、向こうから足早に向かってくるおばさまをすぐさま発見しますし、タイミングよくバスが来たので今日は乗っちゃおうと列に並ぶと前方に必ずおばさまがすでに並んでいる。とにかくいつもいるのです。まぁ、ここまではよくある<同じバスを利用している同士>ってことで、だれにでもよくある話です。
例えば、もう何年も何年も同じ電車の同じ車両の同じ位置に乗って一緒に同じ駅間で行くあの人、この駅では必ず一旦降りてドア脇を死守するあの人、いつも同じ列で必ず前後になるあの人、みたいな。この『あの人』ってみなさんにもいると思うのですが、そんな『あの人』なおばさまなのです。ですので、おばさまはこの時間帯の人なんだなぁくらいに、なんとなくふわっと思っていたと。というより、私はバスに乗るのがごくごく稀のいわゆる『一見さん』ですから、むしろおばさま的には『見ねぇヤツが来たな!どこのどいつだ?』が正解かもです。超常連の黒帯選手のおばさまからすれば私など数回しか来たことのない白帯八級の新人ひよっこですよ。
ところがある時、その時間帯よりも1時間遅いバスに乗ろうとバス停に向かったら、なんとおばさまがいたのです。えぇっ?
とりあえず偶然だったんだろうと驚きをなんとか飲み込んだのですが、別の日に今度はいつもの時間帯よりも1時間以上早いバスに乗ろうとバス停に向かったところ、
いた。
もーのすごくびっくりしました。そしてそれから、どんなにランダムに時間を変えてバスに乗ろうとしても必ずおばさまが、
いる!
もう必ず、絶対に、いるのです。どうして?どうしてなの?顔に縦線が出ました。いったいこれはどういうことなのだろうと考えました。とりあえず考えられることとしては
①おばさまが私のことをつけている
②おばさま双子説
③おばさまは私のことが好き
①の場合、おばさまが探偵とか警察とかも考えられますが私としては何もやましいことはないはずなので可能性は低め。②は私の中ではけっこう有力説なのですがどうだろう。③どうだろう・・・。
ということで、遭遇するたびに顔に縦線を出しながらこの3つの説が脳内をぐるぐる回る状況に陥るのでありました。そしてしまいにはバス停だけでなく近所のスーパーの同じレジの列に並んでしまうという遭遇っぷり。さすがにこの時は顔の縦線だけでなくビックリマークとかギザギザマークとかヒョウタンツギとか、出せる物すべて私の周りから飛び出しーの、ひょっとして双子ではなく三つ子かもしれないぞ説も大浮上しました。
と、そんなこんなでおばさまに遭遇すると思わず縦線顔でおばさまを凝視してしまうクセがついてしまった私、先日『たまにはこっちから行ってみようかな』とふだん使わない方の道へ向かって角を曲がったら
いた!
というよりも『出たぁぁぁっ!』という感じでした。またか!またなのか!出たなっ!と、思わずビクッとなってしまいましたが、おばさまも一瞬動きが止まっていて、なんとなく顔に縦線が出ているような表情をしていました。
『てゆーかそうだよな、そうだよね』と思いました。私が思っているのと同じようにおばさまも私のことを謎がっていたにちがいないんですよ。きっと『変な前髪でなんとなくむわぁ〜っとした感じのあの女の人、またいたわぁ…』と常々震えていたのかもしれません。『スーパーでも同じ列なんて…ひょっとして私のことつけてるのかしら…いっつも顔に縦線出しながら私のことうつろに見てるのよねぇ・・・夢にまで出てきたらどうしましょうあの変な前髪の人…』なんて項垂れているかもしれません。いや、絶対そうに違いない!もしかしたら私がこうして書いているのと同じように『変な前髪の女』とかいうタイトルでどこかに投稿しているかもしれないです。
それにしても不思議。こんなに行動パターンが重なるなんてなにかしらの波調が同じなのでしょうか。だとすればひょっとしてなかよくなったらめちゃくちゃなかよくなれたりするのかしら。
とりあえず次に遭遇した時には、あいさつでもしてみようかしら。
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