秋になると思い出す アップルストア原宿前での信号待ち

秋になるとふと思い出す風景がある。今から4,5年前。まだ赤ちゃんだった娘をベビーカーに乗せて、アップルストア原宿前の横断歩道で信号待ちをしていた時。
道路には落ち葉がたくさん散っていて、カサカサと音をたてて風に飛ばされていた。それをぼーっと眺めなら、信号が青になるのを待っていると、隣に年配の女性がすっと立って、娘を見て微笑んでくれ「かわいいわねえ」(といわれたかどうか、はっきりとは覚えてないが)と話しかけられた。

そして、

秋の日の
ヴァイオリンの
ためいきの
身にしみて
ひたぶるに
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。

と、詩を口ずさみ、
「知ってる?」と聞かれた。
「いいえ、知りません。」とこたえたら、
ちょうど、信号が青に変わり、
「じゃあね」と言われて、さっそうと横断歩道を渡って行った。

家に帰って、何の詩なんだろうと、うる覚えの記憶を辿りながら、
たしか落ち葉の歌だったなと検索で調べたのが上に書いたフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌ(1844-1896)の詩「秋の歌 Chanson d’automne」の日本語訳。(たぶん上田敏(1874-1916)の日本語訳「落葉」。)

素敵な人だったな。でもきっともう会えないんだろうな。
また表参道ですれ違っていたとしても気づかないんだろうな。

小さな子と一緒にいると、知らない人から声をかけられることがたくさんある。そして、たまにこういう小説みたいなことが起こるのだ。


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