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アートで世界を変える!

結局、ミウッチャ・プラダへのインタビュー、という果てしない夢は叶わなかったのですが(そもそも彼女はほとんどのインタビューを受けません)、彼女に会うことはできました。

2011年、プラダ財団がヴェネツィアに新しい展示スペースをオープンさせた時のことです。
お祝いの言葉と、アートへの情熱が伝わってくる展覧会だと伝えると、彼女は優しく微笑みを返してくれました。
ま、それだけのことですが、私には忘れられないひと時となりました。

そんなことはさておき。。。

いつも素晴らしい展覧会が開催されるのですが、その中でも私が一番印象に残っているのは、『When Attitudes Become Form: Bern 1969 / Venice 2013』展です。
1969年にスイスのキュレーター・ハラルド・ゼーマンがベルンで開催した企画展を再現したものでした。

1969年に開催されたこの展覧会は、その後のアートシーンにとって、とても重要なものだったのだそうです。
解説によると、ポスト・モダンを模索する60年代に行われ、「何でもアートになり得る」と定義づけられた転換点だったから、ということです。

そもそも「何でもアートになり得る」と言い出したのは、マルセル・デュシャン(1887年~1968年)。
彼は“コンセプチュアルアートの生みの親”と言われています。

マルセル・デュシャンと言えば、セラミック製の男性用小便器『泉』。
ご存じの方も多いと思います。
普通に使われている便器を90度傾け、排水口の部分が正面になるように置かれたあれです。
1917年に発表されました。

この作品自体については、彼の作品なのか、それとも他の人の作品なのか、という説があるそうですが、とにかく彼は「何でもアートになり得る」という“レディ・メイド(日本語では「できあいの」という感じでしょうか?!)”を提唱しました。

この考え方のすごいところは、

鑑賞者の思考の中で創造的行為が行われることで作品が最終的に完成する

ということです。

ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、要約すると、

アートの作者はアーティストではなく鑑賞した人

ということになります。

見た人がその作品を見て、精神的に刺激を受け、いろいろ考えることでその作品が成立する、という考え方です。

デュシャンの『泉』を見て、
「なんでこんなところに便器を置いたんだ!」と怒る人がいるかもしれません。
「男性用便器ってなんかエロティックだな」と思う人もいるかもしれません。
便器には全く興味がなく、書いてある「『R.Mutt』って何?」と思い、そう書かれた経緯を聞いて、いろいろと思いを巡らす人もいるかもしれません。

何だっていいんです。
それが、アートなんです。

話がとってもそれてしまいました。
『When Attitudes Become Form: Bern 1969 / Venice 2013』展に戻します。
この展覧会が面白い、思ったのは、1969年に開催された展覧会を、ヴェネツィアの18世紀の館の中に再現した、ということろです。
また記録写真やビデオ、書簡などの関連資料も展示され、当時のことがうかがえ、とっても興味深かったです。
世界中にモノがあふれ始めた頃に、こんなものを?というようなものを「アートだ」と言い切る彼らがなんだか頼もしく感じました。
その中の一つのビデオに、私はくぎづけになりました。
アーティストたちた叫んでいたのです。

「アートで世界を変える!」

コンセプチュアルアート的な解釈で言うと、アートの作者は鑑賞する私たちです。

オリジナルの展覧会が開催されてから50年余り。
アーティストたちと一緒に私たちが世界を変える!
そんな気持ちで生きていければいいな、と思います。

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