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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第九話

時間は少し遡る。
ゆさゆさ。不自然な揺れでわたくしは目を覚ました。あれ?ここはどこだろう。視界は暗く遮られている。

思い出した。後ろから男の人に声をかけられて、魔法で眠らされたのだ。ということはわたくしは攫われてしまっているのかもしれない。担がれて移動しているのだろう。

ギィー

ドアの開く音が聞こえた。

眠ったふりをしておこう。わたくしは目を閉じた。

「今回は上玉の娘だ。こいつは高く売れるにちげえねえぜ」

「そうか?お前いつも同じ事言ってるな。早く見せろよ」

下に降ろされる。目を閉じていても光を感じたので出されたようだった。わたくしは床に降ろされた。

「おお~こりゃ・・どこかのお嬢様じゃねえか?お前にしてはいいもん見つけたな」

どうやら人身売買をするつもりらしい。で、でも助けに来てくれるわよね?ロイドも近くにいたはずだし・・。

それから直ぐに声が聞こえた。最近よく聞くグリーンの声だった。
音しか聞こえなかったからよく分からなかったけど、どうやら助けに来てくれたようだ。助かった。何故かロイドじゃなくて、グリーンみたいだけど。

**

わたくしは目を開けた。グリーンに抱きかかえられていたようだった。

「助けてくれたのですか・・有難うございます」

わたくしは抱きかかえられながら、グリーンの顔を見た。

「姫様が、無事で良かったです」

グリーンがホッとした表情でわたくしを見ている。ようやく危機から脱出したのだ。急に、トクンとハートの音が聞こえた。鼓動が早くなっている気がする。わたくしは何故か顔が熱くなっているみたいだった。これってもしかして・・?初めての感情に私は動揺していた。まさか・・でもそんな・・。


「あの・・グリーン実は、お願いがあるのですが・・」

城に戻ってから部屋で帰り支度をしていると、パトリシアは頬を染めて何故かぼくにお願いと言ってきた。お願い?一体何をお願いされるのだろう。パトリシアはもじもじして中々話そうとしない。どうしたのだろう。

「あの、どうかしたのですか?お願いって・・」

「わ、わたくし、こんな気持ち初めてですの!グリーンさえ良ければもうしばらく・・いえ、ずっと一緒にいて欲しいのです・・・」

顔を真っ赤にして、言葉を絞り出すパトリシア。それってどういうこと?

「一緒ってどういう・・」

「わたくしは、グリーン様を好きになってしまったみたいなのです・・」

パトリシアは目を潤ませてぼくを見つめてきた。

「「えええええええええ」」

「えっ?ちょ、ちょっと待って・・」

お、王女様がぼくを好きだって??

「れ、冷静になって下さい。相手は平民ですよ?よくよくお考えになられて・・」

護衛のロイドが狼狽《うろた》える。

「ロイドは黙ってて!」

王女はぴしゃりと言葉を遮った。


「パトリシアの様子が変だと言うから来てみれば・・お客人が困っているだろう・・よく考えてから行動しなさい」

低く貫禄のある声が部屋に響き渡った。扉の入口に銀髪の壮年の男性が立っている。頭に王冠があり、白い上質なローブを羽織っている。

「お父様・・」

「お前は、すぐ周りが見えなくなる悪い癖がある。誰に似たのやら・・パトリシア部屋に戻りなさい」

「はい。申し訳ありません」

項垂《うなだ》れて、王女は部屋を出て行った。ロイドも一緒に付いていく。

「王様!」

ぼくは慌てて、頭を下げた。

「頭を上げてくれ、余の娘を助けてくれたそうだな。感謝している・・それと今まで娘のわがままに付き合わせてすまなかったな」

「お詫びと言ってはなんだが・・きみは町の人々を治療しているそうではないか。ぜひ役立てて欲しい」

王様の従者がトレーをぼくの前に差し出した。革袋が乗っており、中には金貨が入っていた。

「少ないが、良かったら受け取ってくれないか」

「有難うございます。是非治療に使わせていただきます」

ぼくは深々と頭を下げた。


「グリーンどうしたの?」

帰りの馬車の中で物思いにふけっていると、アリスから声をかけられた。王女からの告白。もし受け入れていたら今頃どうなっていただろう。そんな思いが頭をよぎった。

「何でもないよ・・」

アリスには余分なことは言いたくない。変に心配させそうな気がするから。5日かけてようやくガラ町に戻ってきた。何年も離れていたような、懐かしい不思議な感覚だ。

帰ってきて、ぼくは寝室のベッドに寝転んだ。

「グリーン?」

アリスがぼくの隣にいて、ベッドに腰かけていた。

「あ、ごめん、何でもないよ気にしないで」

「別に謝る事無いけど、最近変なの。いつも私の顔見てない?」

「え?そうかな」

「うん。それに何だかぼーっとしているみたいだし・・」

自覚はあった。気が付くと自然と目で追ってしまっているからだ。

「ああ、そうだ」

ぼくは起きて、王様から貰った革袋を開けて確認してみた。金貨が100枚入っていて、しばらく働かなくても十分に暮らしていける金額だ。でも折角なので、考えていたことをやってみようと思った。

「凄い金額ね・・」

「これでテナント付きの家を借りようかなって考えてる。流石に最近は手狭だからね。いつまでも間借りしているのも悪いし」

「そんな、気にしないで良いのに」

「実は、教会の近くの場所を借りようと思っているんだ」

数日前、王女の告白を聞いて動揺したけれど、それだけだ。ぼくは平民だしそもそも身分が違いすぎるからね。凄くキレイな人だとは思うけど。

どちらかと言うと、ぼくが今一緒に居たいのはアリスだから。


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