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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十二話

「「お師匠様!一生ついていきます!」」

あたしは声に出して叫んでいた。本にしか書かれていない伝説の魔法を、グリーンさんは事もなげにやって見せたのだ。しかも試しにとか言って。それなのに、この方は事の重大さを全く分かっていないみたいで。

「是非!お試しであたしを使ってください。一応計算も出来ますんで!」

「シルビアさんって言ったっけ。困ったな・・雇うって言っても、お金ちゃんと払えるか分からないよ?収入も安定していないし」

「だったら、あたしが営業でもします!散々やらされましたので!」

「やらされた?」

やばい!これは言わないでおこうと思っていた事だ。だけど言わないと誤魔化しきれない。

「以前、何処かで働いていたの?もしかして・・?」

「ごめんなさい。あたし、隣町の治療院で働いていました・・黙っているつもりはなかったんですけど・・」

あたしは目を反らした。ここに来たのは就職先を探すため。以前いた治療院の院長がグリーンさんを殺そうとしていたらしい。そんな物騒な店にいたとなれば、きっと雇ってもらえないだろう。

グリーンさんは少し驚いていたようだったけど。

「分かった雇うよ。だけどお給料はどのくらい出せるか分からないけどいい?」

「あ、有難うございます」

あたしはグリーンさんに頭を下げる。真実を知ってもあたしを雇ってくれる。本当に感謝しかなかった。

「良かった・・」

治療院が廃業になった時は、どうしようかと思っていたけれど・・。

「今度の所はどうだろう。またこき使われるのかな・・」

**

家に戻り、燭台に火をともした。あたしはガラ町で一人暮らしをしている。
昔、親に言われたことを思い出していた。

「あんたはグズだね。何にも出来ないくせに」

毎日のように母親に罵倒を浴びせられた。あの頃は母親のいう事が正しいと思い込んでいた。小さい頃からいつも言われていたからだ。気に入らないと殴られた。あたしはいつも怯えていた。

そのうち、殴られたアザを自分で治せるようになっていた。最初はよく分からなかったけれど。後になってこれは魔法というものだと知った。

ある深夜、両親の声が聞こえてきた。

あの子シルビアを売ってしまおう。もういい年齢だ、あれは金になる・・」と

あたしが15歳になった頃の事だった。偶然聞いてしまい、怖くなって家からこっそり逃げ出した。最初は大変だったけど、何とか働けるようになり生活できるようになった。たとえ職場でこき使われていても、暴力は振るわれなかったから。

あれから5年が経っていた。

「あの頃よりだいぶマシね。仕事も決まったし、これで何とか生き延びられる」

あたしは両腕を上にあげて、体を思い切り伸ばした。


教会の奥のキッチンテーブルで、夕食後私はグリーンとお茶を飲んでいた。私はこのゆったりとした時間が結構気に入ってたりする。

「アリス、教会の近くに良いテナントが見つかったんだ」

「ああ、えっと治療院を作るって言ってたわね」

「従業員も一人雇う事にしたんだ」

「赤い髪の女の人よね?」

見た感じ20代と言ったところだろうか。赤い髪に三つ編みで、眼鏡をかけていて・・素朴な感じの女性だった。

「計算とか出来るって言ってたし、あと回復魔法も使えるんだって」

グリーンは何だか嬉しそうだ。彼女に期待しているのかもしれない。女性と言ってもただの従業員だろうし・・大丈夫よね。

**

私は、部屋の椅子に座りぼーっとしていた。

「グリーンが教会から出て行く」
「教会の収入が減る」

グリーンのいない教会を想像してみた。何だか寂しい気がする。いや、めっちゃ寂しいかも。近くにお店を作るって言っていたから、会えないという事でも無いのだけど。

「でも、教会のお金が少なくなる・・薬草で何か作ろうかな・・」

裏の庭で採れる薬草で軟膏を作ってお店に置いてもらおうかな。教会の収入が減るのは仕方ないんだけど。考えてみるとグリーンに頼りっぱなしだったみたい。

「そういえば、アース様はお元気かしらね」

ふと思い出した。子供の頃にお世話になった、アース様。今は大出世して大神官になったらしいと聞いている。

「子供の頃、よく遊んでもらったっけ」

感覚的には優しいお兄ちゃんみたいな感じだった。子供の頃の懐かしい思い出。

私は赤ん坊の頃、教会の外に捨てられていて神父様に育てられた。大人になったら、父の様にシスターになるのが当たり前と思っていたのだけど。父は何年も前に亡くなってしまったのだ。

「いっその事、教会辞めてグリーンのお店を手伝った方が楽なのかもしれないわね。私も回復魔法使えたらなぁ。シルビアが羨ましいわ」

「はぁ~」

私は無意識にため息をついていた。欲しいと思っても魔法は得られるものでもない。今手にあるもので、生活していく他は無いのだ。人それぞれ得意不得意があるのだから。

「稀《まれ》に後天的にスキルを貰える人もいるみたいだけどね。さあて、これからどうしようかしら」

まぁ、頑張ってお金を作らなくても、のんびりやっていくというのもある。信者さんがあまり来ない教会はお金は無いが、それでも今までやってこれたのだ。

「少しお休みするくらいが丁度いいのかも」

頑張って、無理をする必要はないのだ。


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