「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十八話
わたしは大聖堂で報告を聞いていた。
「失敗しただと!?」
グリーンに魔法をかけたのは一流の魔導士で、魅了魔法《チャーム》にかけては実力のある者だった。捕まってしまったようだったが、裏から手をまわし何とか連れ戻すことが出来た。
「アリスを手に入れるために邪魔だと思っていたが・・クソッどんだけ能力高いんだよ・・」
ああ、しまった。素が出てしまっていた。逆に囲い込む方が良さそうに思えてきた。
「欲しい・・欲しいな。何か他のアプローチはないものだろうか」
出来れば、アリスとグリーンを一緒に手に入れる方法は・・・。
「はああああっ」
リビングで、ぼくは深いため息をついていた。もう襲われれる事は無いと思っていたのに。
「グリーン?大丈夫??」
アリスも厄介な人に好かれたものだな。
「う、うん」
アリスに言っておいた方が良いのだろうか?話したら不安にさせそうだもんな。アリスなら、「文句を言ってくる」なんて言い出しかねない。でも先ほどの魔法使いが居ながら、アリスには魔法をかけないのが疑問だった。魔法なら言いなりになってしまうから、嫌だったりするのだろうか。
アリスには一応、話しておいた方がいいかもしれない。
「実は・・・」
ぼくは先ほど魔法で、魔導士に襲われた事を話した。
「うわぁ・・信じられない・・どこまで卑劣なのあの人は・・」
「ぼくだったから良かったけど、流石に困っちゃうよね」
「グリーンてさ、お人よしだよね。まあ、そこも良いところなんだけど」
「え?そうかな?」
「そうだよ~。普通なら怒って怒鳴り込むと思うよ?」
幸い今回は実害があったわけじゃないし、腹は立っていない。ただ、また同じことがあったら嫌な気分になりそうで憂鬱だ。
カラン、カラン・・
店のドアが開いた。考えながら帰ってきたので、ドアを閉めるのを忘れていたようだった。
「何やら辛気臭いですわね~。どうしたのかしら?」
「あれ?今日は閉店してるのですが・・って」
ぼくとアリスはドアに立っている人物を見て固まった。この町にいるはずが無い人が立っていたからだ。
「王女様?どうしてここに?」
「どうしてって、気になったから来てみたのですわ。お久しぶりですわね」
お城で見た時よりも若干地味なドレスを着て、王女が立っていた。銀髪は相変わらず縦ロールなのだけど。バタバタ・・外から慌てて走ってくる足音が聞こえてきた。
ロイドだった。
「明日にしてくださいって言ったじゃないですか。もう夜も遅い事ですし。迷惑になりますよ」
「もう来ちゃいましたわ。それに何かありそうですし・・・」
パトリシアはぼくとアリスを見て微笑んでいた。
「えっと、それでぼくに会いに来たのですか?」
王女様とロイドさんにお茶を出した。もう夜も遅いと言うのに、彼女は非常識な(世間の常識に王女様は当てはまらないのかもしれないが)人だと思った。
「王女様って・・世の中のことに疎《うと》いのですね・・」
ぼくは、少しイラっとしていた。
「申し訳ありません・・よく言って聞かせますので・・」
ロイドさんが平謝りをしている。
「明日にして頂けないですかね・・なにぶんぼくは疲れているので」
「ああ、ごめんなさいね。そんなつもりは毛頭なかったのですけれど、貴方に無性に会いたくなってしまって居てもたってもいられなかったのです」
そっか。王女様、ぼくの事好きって言ってたっけ。でも今はどうでもいいや。ぼくは疲れ切っていて、頭が全く回らなかった。人に気を遣う余裕すらない。
「と、いう事なので申し訳ありませんが、お帰りください」
アリスが王女とロイドの背中を押して、お店の外へ出した。
「ありがとうアリス。流石に今夜は疲れたよ~」
「もう、いい加減にしてほしいわよね」
アリスも呆れた様子だ。
次の日は普通に治療院の営業日。ぼくとシルビアは、怪我をしたお客様に魔法で治療をしていた。今日は人が少なくて、大変じゃなかったけれど。
休憩室には、朝から来た王女様とロイドが座っていた。奥から視線を感じるが気にしないようにしよう。
「あの・・奥の方たちは一体何者なのですか?」
シルビアがぼくに耳打ちをしてきた。
「レーベンの王女様と従者だよ」
「えええっ!」
人が少ないから良かったものの、人がいたら大騒ぎになっていただろうな。
「いつまで待たせるのかしら?」
「午前中のお店が終わるまで・・と聞きましたが」
はぁ~わたくしはため息をついた。
せっかく愛しのグリーンに会いに来たというのに、相手にしてもらえないなんて。
わたくしは時間を持て余していた。いつもロイドとは一緒にいるので特に話すことも無い。ようやくグリーンがこちらに来たみたいだった。
「臨時閉店にしますね。今日だけですよ?」
「シルビアごめんね。今日は営業終わりで」
「ええええ~?仕方ないですね」
シルビアはガックリして家に帰っていった。どうやら彼女は今の仕事が楽しいらしくこの前聞いたら、休みは要らないなんて言っていた。それはそれでどうかと思うけど。
ぼくは閉店の札を出した。このまま、二階に行ってベッドで寝たい気分だ。
「それで?何の用です?ぼくは昨日から色々あって疲れているのですが・・」
「好きな人の傍にいたいと言うのが人情じゃありませんこと?」
うむむ。早く本題に入って欲しい。ぼくはため息をついた。
アリスが一言付け加える。
「彼、昨日また襲われちゃって気持ち的に疲れているんですよ。ほどほどにしてあげて下さい」
「襲われたって?誰に・・」
ロイドが食いついてきた。
「・・アリスの事を好きな大神官とかいう奴、がぼくを襲ってきたんですよ‥いい加減にしてほしい」
「大神官アース様でしょうか。直に襲ってきたのですか?」
ロイドが怖い顔をしている。
「いいや、多分手下を使って、魔法使ってきてさ。ぼくじゃなかったら、やられていたと思うよ」
「ううむ」
ロイドは考え込んでいる様子だった。
「そのような事をする人物だとは思えませんが、後で話を聞いてみるとしましょうか。これはレーベンにとっても大事な問題になると思いますので」
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