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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十三話

とある街中、ここは何処の国なんだろう。とにかく、レーベン王国から出た隣の国だ。

「おいあれ・・」
「見ちゃ駄目よ・・」
「放っておきなさい」

オレはレーベン王国から何故か国外追放されてしまった。意味が分からなかった。
オレが何をしたって言うんだ?オレは金もなく、住む家にも苦労していて街中で座り込んでいわゆる浮浪者になっていた。

「腹減ったな・・」

如何してこうなってしまったのだろう。このままオレは野垂れ死んでしまうのか。

「「号外だ!隣国レーベン王国ミルドスの治療院の院長リグルスが死刑!何でも貴重な回復魔法士を殺そうとした罪だそうだ」」

若い青年が道行く人々に無料で新聞を配っていた。ミルドス?今のオレには全く関係が無い。そういえばグリーンも回復魔法を使うって聞いたっけ・・。

「グリーンを、追い出さなければよかったのか・・・」

今更後悔しても遅いが。


「院長が死刑?」

教会でシルビアは新聞の号外を見ていた。

「どう・・しましょう。あたしも何かしらの罪に問われるのでは・・」

シルビアは顔を青くして新聞が小刻みに揺れている。

「多分、大丈夫じゃないかな。何もしてないんでしょう?」

「・・はい。今まで院長が、そんな事をしていた事も知りませんでしたから・・」

「もし何かあったとしても、ぼくが王様に掛け合ってあげるよ。大丈夫」

ぼくはシルビアの震える肩に手を置いた。茶色い眼鏡のレンズが曇っている。泣いているのだろうか。

「グ、グリーンさん?!」

ぼくはとっさにシルビアの赤い髪を撫でた。シルビアはぼくより5つ年上と言っていたけど、子ども扱いしていると怒るだろうか。シルビアは顔を赤くして俯いてしまった。震えは止まったようだ。良かった。


あたしは家に帰った。今日は早めに家に帰っていいと帰されたのだ。グリーンさんに頭を撫でられた。今まで、親にだってそんなに優しくされたこと無いから驚いてしまった。胸がドキドキして、心が温かくなった。

グリーンさんは、前の職場の院長と違って威張る事をしない。自分の親も命令に従って当たり前という感じだったし、職場の上司もそうだった。こんな人初めてだ。あたしの意志を大事にしてくれる。怖がるあたしを慰めてくれる。初めて会った優しい人だった。

だけど、どうやらグリーンさんにはすでに好きな人がいるみたい。教会のシスターだ。あたしの片思いだから別にいいよね?昼間はずっと一緒にいられる。今は一緒にいるだけで良いんだ。

「グリーンさん大好きです」

誰もいない部屋で一人呟いた。


教会のすぐ近く、一階がテナント二階が住居の物件が直ぐに決まった。不動産屋のご厚意で、安く借りられたのだ。内装は少しずつ変えて行けばいいだろう。

教会だと、固い長椅子しかなかったから、座るにも痛かったに違いない。まずは柔らかいベッドを幾つか置くことにした。費用は、王様からお金を貰っているので心配が無い。

シルビアはすっかり元気を取り戻したようで、ぼくは安心していた。若干、ぼくとの距離が近いのが気になるけれど。お店の入口には豪華な花が飾られている。町の人たちが持ってきてくれたものだ。

アリスが新しいお店を見に来ていた。

「まぁ、仲のよろしいことで」

アリスが冷ややかな目でぼくを見ている。ふと横を見るとシルビアが、くっつきそうなくらいぼくの近くにいた。ぼくは驚いて、とっさに離れた。

「あは、失礼しました」

慌てて、距離を取るシルビア。

「さあ、お仕事、お仕事!」

シルビアは奥の部屋へ入って行った。

「心配だわ・・」

はあ~とアリスがため息をついた。

「え?何が?」

「気が付いていないのは本人だけなのよね。こうなったら私も覚悟を決めないと・・また来るわね」

一体何のことを言っているのだろう。はて?
アリスは教会に戻っていった。

カラカラーン
ドアに付けた鈴が鳴った。

「怪我を治してもらいたいのだが・・」

中年の男性冒険者が、仲間に肩を貸してもらって歩いてきたようだ。ベッドに横になってもらい、怪我の具合を診ることにした。

「はい。診せてもらってもいいですか?」

胸部の深い傷だったので、ぼくがヒールをかけることにした。軽い怪我はシルビアに魔法をかけてもらっているのだ。

『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』

「おお、傷が消えている・・痛く無くなった!噂通りだ!」

「流石グリーンさんですね。あたしのヒールだと治りきらないかも・・」

「そう?」

「治療費は、銀貨2枚と聞いたが・・それでいいのか?」

シルビアは驚いた様子で、ぼくとお客様を交互に見ている。

「有難うございました」

ぼくは冒険者から、銀貨2枚を受け取った。

**

閉店後シルビアが治療費のことを聞いてきた。

「「えええ?銀貨2枚なんですか?安すぎません?」」

「以前のお店は金貨一枚取っていましたよ。それでも安いからと値上げしたいって言ってたし・・グリーンさんどんだけ良い人なんですか・・」

金貨一枚って高すぎだろそれ。貴族ならともかく庶民の金額じゃない。

「今のお店はテナント料金が発生するんですよ?以前の教会ならまだしも・・せめて銀貨5枚にしたらどうですか?」

「うう~~ん」

確かに月に一度お金がかかるんだよなぁ。テナント料金。忘れていた。仕方ない少し値上げするか。だけど、上げてお客さんが来なくなったらどうしよう。

「んん~銀貨3枚で」

「仕方ありませんね。しばらく様子を見て、無理そうだったらまた上げたほうが良いと思いますよ」

本当言うと値段は上げたくないんだけどなぁ。仕方ないか・・。


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