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「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十七話
「だしに使っちゃってごめんなさい!」
大聖堂から出て直ぐに謝られた。アリスは、両手を合わせて頭を下げている。
「あの人いつまでも付きまとってしつこいの。こうでも言わないと諦めてくれないと思って…」
「そう、だったんだ」
確かに人前で言われたときは少し驚いたけど、凄く嬉しかった。改めて好きって言われた事に。
「良いよ。正直嬉しかったし。ぼくも嫌いじゃないし」
「グ、グリーン?!」
「ごめん、自分の気持がよく分からなくて直ぐにはっきり言えなくて…今なら言える。アリス、きみのことが好きだよ」
人目をはばからずアリスは、ぼくに抱きついてきた。信者さんからジロジロと見られている気がする。
「あ、アリス流石に恥ずかしいよ」
「嬉しすぎてごめん、しばらく余韻に浸らせて…」
人が大勢いる中でぼくとアリスは、しばらく抱きしめあっていた。
ぼくとアリスは当初の予定通り、冒険者ギルドに来ていた。時間は夕方近くになってしまったけれど、まだ営業をしていたので良かった。あと一時間で閉店らしいけど、人は思ったよりも大勢いた。
「あれ?今日はどうしたの?お二人さん」
マリリアさんが、ぼくたちを見つけて近づいてきた。
「ちょっと見学しようかと思って・・ってうわ」
ガタイの良い、ギルド長がいつの間にかぼくの後ろに来ていた。赤い髪を掻きながら、嬉しそうに話しかけてくる。
「いや、まさか来てくれるとは思っていなかったよ。他にも誘われていたみたいだったからな」
ぼくはラオに肩を叩かれた。
「ギルドってどんな感じなのか一度見ておきたいと思いまして・・」
「まあ、見ての通り男ばかりのむさくるしいところだ。受付は女性が担当しているがね」
室内は薄暗く、独特の雰囲気があり酒場が似た感じだと思う。男性が確かに多いが、女性もちらほらみかける。剣士、魔法使い、全身鎧の人もいる・・色々な職種の人がいるみたいだ。
「食事ができるスペースもある。そこの掲示板は冒険者が依頼を受ける用紙がはってあるんだ」
言われてみれば、奥にはテーブルがあり酒を飲みながら食事をしているみたいだった。
「知っていると思うが、冒険者は危険な仕事で怪我も多い。なので回復魔法を使えるグリーン君を正式に雇いたいと思っていてね」
「なるほど。そういう事ですね」
地位や名誉じゃなくて、本当に必要とされている気がした。
「では、この条件なら・・」
ぼくはギルド長に、雇ってもらう雇用条件を伝えた。
「まあ、それでも構わないよ。来てくれるだけでも有難いし」
良かった、言ってみるものだな。意外と融通が利いて助かった。これで資金面で不安は無くなった。
「お休みが週に二日ですか?」
治療院で、シルビアさんに伝えた。
「治療院の休日は二日で、出張って事で一日だけ冒険者ギルドで治療をすることになったんだ。ぼく一人で行ってくるよ。一日金貨3枚もらえるしね」
「ほほ~そういう手がありましたか・・。これで当分値上げしなくてもやっていけそうですね?」
ぼくの考えがシルビアに見抜かれていた。
「・・まあ、そういう事だよ」
お金というものはアイディア次第で増やせるものらしい。今回は運が良かったのかもしれないけど。
今日は初めて冒険者ギルドで治療をする日だ。緊張するな。今まで通りすればいいだけの事なんだけど。言われていた通り、朝冒険者ギルドへ出向いた。扉を開くと、清掃をしていた。
「まあ、そこらへんでのんびり座っていてくれ」
ラオは忙しいらしく、二階に昇って行ってしまった。
「ギルド長いつもあんな感じなのよ、気にしないでね」
マリリアさんが声をかけてくれた。
「何か手伝いましょうか?」
「いいのよ。貴方のお仕事じゃないんだから、休んでいた方が良いわよ」
午前中は特に何もすることが無く、ぼくはギルドの様子を眺めていた。
「多分忙しくなるのは、午後からだと思うわ。早めにお昼食べちゃったら?」
マリリアさんが、トレーに乗せてサンドイッチと飲み物を持ってきてくれた。
「気を遣わせちゃってすみません」
「いいのよ。これもお仕事なんだから」
バタン。
扉が開いた。肩で息をしている若い冒険者が倒れこんでいた。
「片っ端から、治療していいんですよね?」
「お願いしますね」
倒れこんだ冒険者は重症の様子、後から付いてきた女性の冒険者も仲間を連れてきていたようだった。
『癒しの女神よ我に力を与えたまえ・・ヒール』
次々と魔法をかけていく。
「取り合えず大丈夫かな・・」
やはり、店でするのとでは勝手が違う。分かっていた事だけど。緊張感からか、汗が出てきた。
「ふう~」
「おお、やっぱり凄いな魔法は」
ラオが二階から降りてきたようだ。
「ポーションよりも安いし、早いみたいだな」
回復ポーションってそんなに高いのか。金貨3枚ってずいぶん多いなって思ったけど、そうでもないみたいだ。
「一応治しましたけど、体は休めたほうが良いと思いますよ」
ぼくは食べかけのサンドイッチを、口に放り込んだ。それからほどなくして、また怪我をしている人が来た。多分喧嘩をして、怪我をした程度みたいだけど。
『ヒール』
直ぐに治った。初日は意外と、怪我人は多くなかった。元々休みの日だし、この位が丁度いいのかも。もう少ししたら、ギルドも閉まる時間だ。
「グリーン、今日の賃金だ」
ラオから金貨を受け取った。
明日はいつも通りの治療院だし、早めに休むとしようか。
外、暗い中を歩いていると深くフードを被った人とすれ違った。キツイ香水の匂い。香水はちょっと苦手だ。多分女性なんだろうなと振り返る。
『わたし、貴方のファンなんです。是非お付き合いしてください』
「え?」
振り向きざま、声をかけられた。甘ったるい変な感じだ。意識がぼーっとしてきた。女性はぼくの手を取り、ぼくの瞳を見つめる。
『是非恋人になって、《《好きになって》》下さい』
「こいび・・と?すきに・・?誰を?」
「え?」
「「「パアン!」」」
何かが弾き返された音がした。
「君、ぼくに何をしたの?何かの魔法だよね・・」
「わ・・わたし・・は・・まさか逆に弾き返されてしまうなんて・・はぁはぁ・・」
女性は何故かぼくの体にくっついてきて、離れなくなってしまった。表情も虚ろで何処かおかしい。何か悪い薬を飲んだらこんな感じになるのだろうか。
「まいったな・・解呪魔法があればいいんだけど」
恐らく、ぼくに魔法をかけようとして弾き返されたのだと思う。防御魔法 障壁って魔法も効くらしい。この前は物理攻撃も大丈夫だったし。
「すき・・」
「魅了魔法《チャーム》かな・・何だってこんなものを・・今だったら理由が訊けるのかな?」
「どうして、ぼくを襲ったの?」
「・・大神官様から依頼されてアリス様から引き離すようにと・・魅了魔法をかけようと・・しました・・はぁはぁ・・」
え?こっわ。何考えてんのあの人。そういえば、見張られてるって言ってたもんな。そのくらいはするって事か。ぼくはステータスを見て、それっぽい魔法を唱えてみた。
『解呪』
直ぐに魔法は解呪された。女性は顔を青くして、固まっていた。
女性は呟く。
「回復魔法を使うだけだからって聞いていたのに・・油断していました。魔法が効かないなんてありえません」
襲ってきた女性の魔導士は町の自警団へ引き渡した。
実害は無かったのだけど・・。
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