「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十六話
「一度、冒険者ギルドに行ってみようかな」
「え?ギルド長に会いに行くの?」
「まさか、ここ辞めるなんて言わないですよね?」
夕方の閉店した後店内で、ぼくはアリスとシルビアに言った。ただ、冒険者ギルドがどんなものか気になっているだけなんだけど。
「まだ、どうするかは決めていないよ。ちょっとギルドを見てみたいのと、話しを聞きたくなっただけ」
「そうなんだ」
「お店閉めないで下さいね。せっかく働き口見つけたのに・・」
もちろんお店を閉店するとかは考えていない。
「そっか。じゃあ私も一緒に行くわ」
「今度の休みに一緒に行こうか。じゃあ、シルビア今日はお疲れ様」
シルビアをお店から出して、店を閉める。ぼくとアリスはテナントの二階に住んでいるので、中にある階段から二階の自宅へ向かう。
「しかし、急にどうしたんだろうね」
リビングでぼくとアリスは座っていた。まさか三人打ち合わせてから来たわけでもないだろうに、タイミングが合い過ぎだ。
「王城から帰ってきたタイミングを見計らって来たのかな?だから同じ日になったとか」
「それにしても重なり過ぎよ」
「だよね~」
まあ、村の件は無いな。いかにも利用するって感じだったし。それを言うなら大聖堂もそうか。何か囲い込むって感じが嫌な感じなんだよな。それとアリスの知り合いっていうのも個人的に嫌だ。イケメンだったし。絶対にモテるだろあいつ。
「グリーン?怖い顔になってるよ。何考えてるの?」
ああ、ヤバイヤバイ・・気を付けないと。ぼくは嘘が付けないタイプみたいだからな。
「ああ、ごめん。なんでもないよ」
内心ひやひやしながら、言い訳をした。嫉妬でムカムカしているなんてアリスに言えるわけない。
「そっか。ご飯作るね」
「いつもありがとう」
アリスは特に気にする様子でもなく、台所へと向かった。もう教会じゃないのだから、ぼくの分のご飯を作らなくてもいいのだけど。
テーブルでアリスと夕食を食べていた。丸いパンに温かいスープ、スープには大きめの根菜が入っている。焼いた肉も皿に盛られていた。
「以前と同じものを食べているはずなんだけど、最近はとっても美味しく感じるのはなんでだろう」
素朴な疑問が口からこぼれた。
「何か言った?」
「「いつも美味しいご飯作ってくれてありがとう」って言ったんだよ」
「どうしたの?いつにも増して変ね。誉めても何も出ないわよ」
アリスはクスクスと笑っていた。
夜、私は自分の部屋で寝巻に着替えていた。グリーンって会った時から穏やかな人だなって思っていたんだけど・・・。最近はそうでもないみたい。怒ったりする事もするんだな。まあ、人間だし当たり前なんだろうけど。
「大神官アース様が来てから、機嫌が悪くなったみたいなのよね・・どうしてかな。嫉妬とか・・まさかね」
「あの人も、幼い頃は良いお兄ちゃんだったんだけどなぁ・・何でこんな風になったんだか」
昔の事を思い出す。アース様は私の事が好きらしい。シスターだった頃は、はっきり嫌と言えなかった。立場上、クビになってしまってもおかしくなかったから。
「うん。きっぱり断っておこう。後々面倒になると厄介だし。念の為、グリーンに一緒に行ってもらおうかな」
私は大聖堂へ行ってアース様に会うことにした。
今日はグリーン治療院はお休みの日。朝、アリスから声を掛けられた。
「一緒に行って欲しいところがあるんだけど」
珍しくアリスからお願いをされる。アリスはぼくに遠慮をしているのかあまりお願いをしてこない。でも今日は何かあるみたいで。
「個人的な用があるの。大聖堂に一緒に行ってほしいんだけど・・嫌だよね?」
「え?大聖堂ってあの?」
「それと、グリーンは大聖堂には《《行かない》》でいいのよね?もし行く気があるのなら話が変わって来ちゃうから・・」
「ああ、うん。断ろうと思っていたよ」
「良かった。ちゃんと話が出来そうだわ」
大聖堂は意外と近くにあった。てっきり首都レーベンにあると思っていたけど。馬車で半日で到着した。ぼくは信心深くないから全く知らなかったのだ。
「昔から神殿があるからこの場所らしいわ。不便だから、レーベン王は場所を移したがっているけど・・神官が反対しているんですって」
自然はあるが何もない場所。生活するのは大変そうだ。以前はここが栄えていたのだろうか。その建物は神殿の隣に作られていた。
「さすが、でかいな」
教会と比べ物にならないくらい大きい。それでいてへんぴな場所なのに人が大勢いる。信者さんだろうか。馬車も定期的に走っているみたいで、交通の便は悪くなさそうだ。
「裏口から入るわよ」
「もう関係者じゃないんだろ?いいのか?」
「何言ってるの、誘われたでしょ。関係あるじゃない」
アリスは広い建物をぐるりと回り、裏のドアをノックする。
「すみません。アリスです」
「あ、はいお待ちください」
中からカギが開けられて、ドアが開かれた。
「あれ?最近辞められたと聞きましたけど」
「今日は大神官さまに、そこのグリーンが用があるとお伝え願えますか」
「では、中に入ってお待ちください」
ぼくとアリスは大聖堂の中に通される。来客用の部屋の一室に。中は教会と思えないほど、豪華な椅子や調度品が飾られていた。流石に王城には劣るけどそれでもかなり豪華だった。
「うわぁ、ここ凄いな・・」
教会ってお金が無いイメージだったけど、ここは違うのかな?ぼくらは豪華な長椅子に腰掛けて待っていた。
「お待たせいたしました」
思っていたよりも早く大神官が姿を見せた。
「さて、今日はどんなご用事で?前回の事は検討して頂けましたか?」
にこやかに話す大神官。ちらちらとアリスを見ている。
「誘われて有り難いのですが、ぼくには身に余るお話で、お断りしようと思いまして・・申し訳ないのですが」
ぼくは努めて冷静に言葉に出した。こいつやっぱりアリスの事・・。
「それとは別に、私からも一言良いですか」
アリスが切り出した。
「アース様、もう付きまとうのは止めて頂けませんか?私はグリーンが好きなので貴方の思いを受け入れることは出来ません」
そう言うと、アリスは隣に座っているぼくの腕を掴んだ。
「そうですか・・残念ですね。わたしと一緒になればお金に困る事は無いと思うのですが。将来安泰ですよ?・・それと付きまとっていないでしょ?今は」
「誰だか知らないけど、見張りつけてますよね?迷惑です」
ええ?いつの間にそんな事されていたの??
「ああ、心配でしたからね。貴方が。悪い男に騙されないか、心配で心配で」
なんとなく、大神官の性格が分かってきた気がする。
「なのでアース様、金輪際《こんりんざい》来ないで頂けますか。では、失礼します」
アリスはそう言うと、スッと立ち上がりスタスタと出口に向かって行ってしまった。ぼくは慌てて追いかける。
大神官が去り際、ぼくを見て笑った気がしたのだが気のせいだろうか。
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