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『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』感想

『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』シオドラ・ゴス 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 7/29読了

スチームパンクでミステリ。
ホームズのパスティーシュでもあるけれど、主役はホームズでもワトソンでもなく、『ジキル博士とハイド氏』のジキルの娘のメアリ・ジキル。
他に登場するのは、ハイド氏の娘のダイアナ、ジャコモ・ラパチーニの娘のベアトリーチェ<毒をもつ娘>。
モロー博士の娘のキャサリン<猫娘>-正確には、猫じゃなくてピューマみたいだけど。
フランケンシュタイン博士の娘のジュスティーヌ・フランケンシュタイン。
つまり、19世紀に書かれたゴシック・ホラーやSFのマッド・サイエンティストたちの娘という設定。
この中では、フランケンシュタインのみ少し書かれた時期が早いんだけど、彼女たちの年齢差にもきちんと説明がなされています。

私はホームズ譚と『ジキル博士とハイド氏』しか読んだことはないんだけど、それでも全然問題なかった。作中に大まかな説明があるし、それで話としてじゅうぶん成立しているから。

私自身は、筋書きを読んで面白そうと思い、北原尚彦さんによる本書の解説が早川書房のサイトで公開されているのを読んで、これは絶対間違いないと思って手にとりました。
北原尚彦さんの解説は、本書の内容、そして元ネタとなった小説にもすべて触れていて、この作品の入門書としてもとてもいい解説だと思います(上からな言い方ですみません)。
でも、北原さんの言われているように、このお話の元ネタとされている本を読みたいと思っていて、ほんの少しでもネタバレが嫌という人は、先に元ネタの方をお読みになることをお勧めします。

あと、この本を読む前にTwitterで「怪物くんみたい、行くでガンスよ!フンガフンガー!みたいな話」と評してあるのを見たんですが、読んでみてびっくり。ホントにそうだった! あれ書いた人、すごいな!!

舞台はヴィクトリア朝、ロンドン。
父に続いて母を亡くしたメアリ・ジキルは、母が毎月ハイドという人物に送金していたことを知る。しかしハイドは殺人容疑で終われているはずの男のことではないか? メアリはホームズに調査を依頼しようとするが……。

主人公がジキル博士の娘ということを除けば、始まりはとってもよくあるホームズ譚のようですが、ここから先がよくあるホームズ・パスティーシュとは一味も二味も違います。
ホームズのパスティーシュで視点が依頼人というのはありますが、このお話は単に語り手がメアリというわけではなくて、ホームズ・パスティーシュでありながら、あくまでもメアリたちマッド・サイエンティストの娘たちのお話なのです。

ひとりひとりについての描写、過去の話、巻き込まれた事件、いまも残る謎、そしてまさにいま進行している謎。
それらがまるで目の前に情景が浮かぶように描き出されていて、ページをめくるのが待ち遠しいくらい。
彼女たちのキャラクターも立っていて、話の方向性も何もかも全然違うんだけど、オーシャンズ8みたいにくせが強くて魅力的。

そして私がこのお話のもう一つの魅力と思っているのは、メアリ・ジキルは令嬢であり、広いお屋敷に住んでいるんだけど、実はとってもお金に困ってること。ジキル博士はお金をたくさん持っていたはずなのに、それがほとんどなくなってたんですよね。
だから、メアリは、そしてマッド・サイエンティストの娘たちは、これから生きていくためにそれぞれの特技を活かしてお金を稼ごうと頑張ってるの。

お金を湯水のように使うゴージャスなのもいいけど、こうやって頑張って稼ぐぞー!!ってのもいいですね。
境遇がどうあろうと前向きな人たちは大好き。

このお話は三部作なのかな。
<アテナ・クラブの驚くべき冒険>というシリーズで、続刊にはまた別のヴィクトリアンな怪奇モノからキャラが出てくるらしく、楽しみです。

ゴシックホラーでスチームパンクでミステリで、錬金術師や秘密結社や探偵やマッド・サイエンティストの娘たちが入り乱れる、とても楽しいお話でした。
続刊の翻訳も期待しています!

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