『レディーズ・メイドは見逃さない』感想

『レディーズ・メイドは見逃さない』マライア・フレデリクス コージーブックス 3/30読了

舞台は1911年のアメリカ。主人公のジェインは以前仕えていた主人が亡くなり無職になったが、以前の主人の姪であるタイラー夫人の紹介で新たにニューヨークに引っ越してきたベンチリー家に仕えることとなる。いわゆる成金で上流階級や社交界のことは何もわからないベンチリー家の、主に娘二人を世話するメイドとして。

この本を読む前は、たぶんほぼ同時代…ちょっと後の時代かな、のナンシー・アスター子爵夫人に仕えたロジーナ・ハリスンの書いた『おだまり、ローズ』のように、華やかで型破りで痛快な主人とやっぱり型破りなメイドの話かと思っていたんですが、読んでみたら全然違った。

ナンシー・アスター子爵夫人は最初の女性議員だったから『おだまり、ローズ』は当時の社会情勢のことにも触れられているんだけど、あれはあくまで上流階級の目で見たことだったんだなぁ。ローズは使用人だけれど、いま考えてみるとあの本に書かれていたことは「子爵夫人の使用人」の目で見て考えているような感じがする。

『レディーズ・メイドは見逃さない』はまだ女性参政権が与えられる前の、そういった権利を得るために戦っている階層の人たちから見た話。こちらのメイドのジェインは、上流階級にも入り込んでいるしそういう考え方にも慣れているけれど、戦っている人たちが近しい友人にいるからか、どうしてもその問題にも直面する。ジェイン自身はそういった活動はしていないけれど、ジェインの友人はイタリア移民で参政権のことについて活動もしているし、ジェイン自身の境遇も育った環境も華やかなものとは程遠いから。

今回、ジェインが仕えることとなったベンチリー家は成金で、社交界で受け入れられているとは言い難く、上流階級は上流階級でいろいろと闇を抱えている。

コージーミステリというにはとても重い背景を背負ったお話だったので、びっくりしました。

ベンチリー家は何とか社交界に溶け込もうとし、ジェインも奮闘しているところ、次女のシャーロットが突然婚約してしまう。しかも相手は、おそらくは幼馴染のタイラー家の娘と結婚するであろうと思われていた、タイラー家と長い付き合いであるニューサム家の長男ノリー。家柄もよく男ぶりもいいノリーとの結婚をシャーロットは心待ちにしていたが、ぽっと出のベンチリー家の娘が、お世話になったはずのタイラー家の娘を差し置いてノリーに手を出した、と周囲の評価は手厳しい。それでもなんとかこぎつけた婚約披露パーティの夜、事件が起こり……。

第一発見者となってしまったジェインはベンチリー家のため、そしてどうしても消えない疑問を解き明かすために犯人を捜しますが、相手はなかなか姿を現さず、事件は思わぬ方向へ向かってしまいます。そして真犯人は……。

もうね、真犯人が明かされるところで、マジかって声出ちゃいました。

私はミステリは大好きだけれど、別に犯人探しをしながら読むわけじゃないんですよね。でも、それでも騙された!って思っちゃいましたね。

重い話ではあるけれど、気持ちよく騙されたので、ある意味とても爽快な読後感でした。

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