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『天と地の守り人 第二部』感想

『天と地の守り人 第二部』上橋菜穂子 偕成社 7/20読了

なんかもういろいろと、痛い……! 心も身体も痛い、とこの巻を読んでいて思いました。みんながみんな一生懸命で、私利私欲のために動いているものがそういるわけでもない。
征服者であるタルシュの国の人たちだって、必ずしもすでに征服した枝国や、これから征服しようとしている新ヨゴ皇国をはじめとする北の国を、単に私利私欲で貪ろうとしているわけではない。やり方に問題はあろうとも、国を強大に豊かにし、国民を飢えさせないようにという目的がある。自分の名を轟かせるという虚栄心はゼロではないにしろ、それだけではないんですよね。
タルシュと通じるカンバルやロタの人たちもそう。一部、私利私欲に走ったものがいるにせよ全員じゃないし、それが動機のすべてでもない。
それがわかるからこそ、見ていてとても痛い。

そして前線に送られたタンダは、また他の人たちとは違った意味で痛い。
チャグムや各国の王族たちは死なせる側だけど、タンダたち草兵は死ぬ側。
王族の側は、例えばその中の誰か一人が亡くなったら戦争そのものが終わるかもしれないし、でなくても戦況が変わる。
でも草兵が死んでも変わらない。
そりゃあ全滅レベルでやられたら戦況も変わるだろうけれど、通常で見積もられているくらいの人数が死んだとしても何も変わらない。全滅レベルだったとしても、それが最初から織り込み済みだったら変わらない。
だからタンダたちは死ぬのが怖いというだけでなく、心が麻痺していく。

読んでいて何が辛いって、そのことをバルサが何も知らないというのが一番辛かった。
せめて戦場へ旅立つ前に会えていたら、どこかですれ違えていたら、まったく違っていたと思う。タンダ自身が兵を選ぶくじ引きに参加し、その結果選ばれていたとしても、また少し違ったと思う。
でも、実際はタンダではなくもっと若い親族がくじに当たり、家族(妻や子)がいないからとその身代わりを頼まれたんだし、旅立つ前に言葉を交わすどころか、タンダがそんなふうに覚悟を決めたということすら、バルサがまるで知らないということがとても痛くて辛かった。

この巻でチャグムは目標のひとつを達成したけれど、達成したことに対する充足感よりも苦みの方が勝っていただろうことも、痛かった。
もちろん、100%うまくいくこと、逆に100%うまくいかないこともないと思うけど、それでも、もう少し達成感や充足感が味わえる状態だったらよかったのにね。

この巻でクローズアップされたカリョウとシュガは、頭が切れるばかりに二人とも見なくていいものを見、決断しなくていい決断をしたんだな、と思いました。
そんな思い、辛い決断を、今後はしなくても良くなるといいと思う。

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