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『天と地の守り人 第一部』感想

『天と地の守り人 第一部』上橋菜穂子 偕成社 7/19読了

『蒼路の旅人』のラストで海に消えたチャグム。彼らの「物語」を追いかけていた読者には彼が生きていることはわかっていたけれど、バルサたちには公に伝えられている話しか伝わってないんだよな。当たり前のことだけれど。
だから、チャグムが海に消え、王が皇太子チャグムの葬儀をした以上、チャグムは死んでいるとしか思えなかったのは当然だ。直前までチャグムと一緒にいた人たちの証言があり、それを聞いた王がチャグムが死んだと判断したからには、話を伝え聞くしかできなかった人たちが、そこに誤りがあるとはとても考えられないはず。
バルサほど精神的にはチャグムに近い一にいた人でも、王がどれほどチャグムを疎んじていたかはわかってなかったんだから。

でも、バルサがある意味、実際的な人で良かった。自分の目で見たこと、信頼のできる人から伝えられたことならば、ありそうにないことでも信じるし、逆に言えばどれほど確からしいことでも信頼できる筋からでなければ一応疑ってかかる。
それが彼女の行先にはほんのわずかな光しか見えないとしても、彼女を突き動かす原動力となる。
さすがに今回信じたのは、チャグム自身の手紙というものがあったからこそではあるだろうけれど。

チャグムとバルサ、合流できて良かったなぁ。冷や冷やしたけど、間に合って良かった。
チャグムの心の中には、実の母とは別に、バルサの場所があるんだということが、チャグム本人やバルサにとって、そして読んでいるこちら側の私たちの救いにもなります。

チキサとアスラ、久々に出てきたこの兄妹も良かった。まだまだアスラが前のように笑えるようになるには時間がかかるだろうけれど、タンダに会えてほっとした顔をした、というところに救いがあると思う。
自分の話す言葉が通じる人がいるというのは、とても大きい。単にその言語がわかるという意味ではなく、同じものを見て、同じものについて話せるというのは大きい。ことに、普通に目に見えるものではないものが見える人にとっては。

ヨゴ人である間諜のヒュウゴも気になるキャラです。どこまで本気で言っているのかわからないんだけど、彼には信じたくなる何かがあるから。バルサとこの人は、同じものを見て同じものを感じても、選ぶ道はおそらく違うんだろうけど。

続きが楽しみです。

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