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フリーランスの年収

 働き方改革の影響も相まって、近年、フリーランスという働き方が注目されるようになりました。
 経済産業省がフリーランスに最大100万円の持続化給付金を支給するなど、日本国としても、これらの働き方を支援する姿勢を見せています。
 フリーランスという言葉の定義がやや曖昧なところもあり、専業フリーランスは200万人少々、副業・兼業も合わせると1000万人少々と、統計によってもバラツキがあるようですが、年々増えてきているのは確かな事実だと言えます。

 それに伴い、フリーランスの働き方や年収について知りたいという需要が伸びてきたこともあって、私の経験を踏まえた知見を共有できればよいと思い、この記事を書く運びになりました。
 私廣木涼は、27歳で博士号(理学)を取得して化学メーカーに就職し、38歳で独立してフリーランスのマジシャンとしての活動を始め、2019年、42歳でヒーローウッドエンタ-テイメント株式会社を設立しました。
 フリーランス時代は約4年間という、そう長くはない期間ではありますが、フリーランスに興味を持つ読者様が知りたかった内容をお伝えできれば幸いです。


フリーランスは儲かるのか?

 「フリーランスは儲かるのか?」という質問に答えるとすれば「半分yes、半分no」というのが私の意見です。いえ、「20パーセントyes、80パーセントno」というほうが、表現が近いかもしれません。
 私自身は運よく「yes」の側にいましたが、稼ぐのが簡単だったと言うことはできません。
 年収の平均値として、フリーランス平均は会社員平均の半分ほどしかない、というデータもあるようで、そのデータを信用するとすれば「フリーランスは儲からない」と結論付けることも可能です。

 しかし、この平均値を自分に当てはめることはナンセンスなことです。
 例としてプロ野球選手を挙げますが、
「打者の平均打率が2割5分だから、きっと僕も2割5分の打率になるだろう」
と考える野球選手はおそらくいません。
「期待値が2割5分しかないなら、プロ野球選手になるのは辞めよう」
と考える野球選手もおそらくいません。
 他人の平均値が、自分の成果に対して全く影響を及ぼさないのは、プロ野球選手も一般のフリーランスも同じです。
 儲かるのか儲からないのか、それを決定させることができるのは、自分自身以外には存在しないのです。他人も世間も、あなたの年収に関して何も保証をしてはくれません。フリーランスとは、そういう働き方だと、まずは理解する必要があるでしょう。

 したがって、年収も、月給も、時給も、全フリーランスの平均値を求めることはできたとしても、あなたがフリーランスとして活動する上で何ら意味を持たない数字となります。

 強いてフリーランスの年収を示すならば「0円+出来高」という表記が適切でしょう。
 会社員の年収が「500万円+出来高100万円」なのに対して、フリーランスの年収は「0円+出来高2000万円」といった数字が、事実に即した表記ではないでしょうか。
 仕事をしなければ1円も入っては来ませんが、結果を出せば出すほど、収入は増えますし、会社員では到達できないほどの高い年収を得ることも可能となります。

 ただし、フリーランスの収入には「どれだけ長い時間働いたか」も「どれだけ大きな努力をしたか」も加味されません。「どれだけ売れたか」「どれだけ顧客を持ったか」だけが収入に影響を及ぼす、成果主義の働き方なのです。
 もちろん「時給2000円の案件」を受けることはあるでしょうが、その案件依頼を取れるかどうかが、まさしく成果主義である部分です。

 noteで記事を書いている方はご存知のことでしょう。
 どれだけ長い記事を書いても、どれだけ詳しく調査をしても、記事作成の段階では1円も入っては来ません。時給0円労働ということになります。
 一方、有料記事が売れれば、寝ている間にも収入が入ってくることになりますし、マガジンが継続購読されれば、毎月確実な収入が得られます。
 フリーランスの働き方も、この延長線上の働き方だと言えるでしょう。


フリーランスと会社員の年収は比較できない

 さて、説明の簡略化のために、前の項目では、フリーランスと会社員の年収を比較するような表現にしましたが、正確に言うと、会社員の「500万円+出来高100万円」が「年収」であるのに対し、フリーランスの「0円+出来高2000万円」は「年商」です。年収と年商を比較しても、全く有意義な議論はできません。

 とても基礎的な計算式として、このような計算式があります。

売上-経費=利益

 フリーランスの「年商」とは「売上」のことを指すのに対し、会社員の「年収」は「利益」を指します。「経費」を差し引く前と差し引いた後の数字で比較をしても、意味を見出すことはできないのです。

 たとえば年商2000万円のフリーランスであっても、経費が1500万円かかっていれば、利益は500万円にしかならず、年収500万円のサラリーマンと同程度の稼ぎだということになります。利益率が悪いビジネスもたくさんありますし、経費が売上を超えてしまうと「赤字」となります。
 赤字は会社員として働いているときには存在しない概念です。「年収マイナス100万円」ということは会社員にはあり得ません。
 しかし、フリーランスにはあり得ます。
 フリーランスの年商は「0円+出来高」と先述しましたが、売上が0であれば利益はマイナスになります。1年間仕事をし続けたにもかかわらず、マイナスの利益になってしまうことも、フリーランスという働き方ではあり得るのです。

 会社員にとっての給料は、会社にとっては「人件費」という名の経費です。
 仮に人件費や他の経費がかさんで、会社が赤字を出してしまったとしても、その赤字が会社員の給料や年収に転嫁されることはありません。
 ボーナスがカットされるようなことは確かにあり得ますし、これは会社員にとっては重大な事件でありますが、「年収が2割減る」程度の問題は、フリーランス視点では小さな問題だと言えます。
 2割どころか、20割減ることも、あり得ることだからです。
 黒字500万円から1000万円ダウンの赤字500万円、というのが、年収20割減のケースです。

 このように、会社員と比べると、フリーランスという働き方は、とても大きなリスクを背負う働き方だと言えます。
 しかも、先述したように、一見大きな年商に見えても、その実、手取りは会社員よりも少ないことも、往々にしてあることです。
 「会社員よりも儲かる」というモチベーションでは、フリーランスとして働くのは、正直難しいと言わなければならないでしょう。
 大企業が構築している「稼ぎの仕組み」は、いちフリーランスが実現できることよりも、遥かに巨大であり、遥かに堅固であるのがその理由です。


 ところで、これまた説明の簡略化として、年収と年商は比較できないものの、会社員の「年収」と、フリーランスの「利益」は比較できる、というような表現をしましたが、実際はこれも語弊があります。フリーランスは、経費申請の幅が広いからです。
 たとえば、自宅で仕事をするフリーランスは、家賃の一部を経費として計上できます。一般に、会社員の家賃補助よりも大きな金額となるはずです。
フリーランスは会社員よりも仕事への密着度が高く、どこまで仕事か、どこからプライベートかの切り分けが難しいため、このような判定になるのです。
 したがって、会社員年収とフリーランス利益も、正確に比較できるものではありません。
 納税額は、会社員のほうが多くなる傾向があるでしょう。フリーランスのほうが節税対策に励むからです。
 貯金額は、フリーランスのほうが多くなる傾向があるでしょう。会社員は厚生年金を収める分手取りが減って貯金が難しいですし、また将来的に厚生年金を受給できるため貯金額が少なくても問題が小さいからです。一方、収入の不安定なフリーランスは、様々な不安要素への備えとして、積極的に貯金をしようと考えます。
 このように、様々な観点から行動指針が異なることもあり、サラリーマンとフリーランスを数字として比較をすることはとても難しいことなのです。
 実際にフリーランス活動を行っていても、上記のことを考え合わせると、会社員と比べて実質どのくらいプラスになっているのか、よくわからない、という結論になることが多いです。
 また、誤解した換算式のまま運営を続けるフリーランスも多いのが実情でしょう。


フリーランスの魅力

 さて、前の項目では、フリーランスとはリスクの大きな働き方だと説明しました。「儲かる」というモチベーションでは難しい、とも説明しました。
それでは、フリーランスはどういうモチベーションで働いているのでしょうか。
 もちろん、事実会社員よりも稼ぎのよいフリーランスもたくさんいますし、「儲かる」というモチベーションでフリーランスをしている人がいないわけではありません。
 しかし、私が思うフリーランスの魅力は、「儲かる」という部分ではありません。

 少し前に「ノマドワーカー」などの言葉も流行したとおり、時間や場所に囚われない自由な働き方こそが、フリーランスの最大の魅力だと言えるでしょう。
 「フリーランス」の語源は、中世ヨーロッパにおける傭兵であると言います。彼らは、騎士として王宮に仕えることなく、雇い主を定めずに自由気ままに依頼を受けて、戦場で生活費を稼ぐ「自由の槍」でした。
 現代における戦場とは、ビジネスの場のことです。ビジネスの戦場において、定められた勤務時間からも、決まった時刻の通勤時間からも解放された働き方ができる。それがフリーランスの魅力ではないでしょうか。

 私自身がフリーランスとなったのも、体調を崩して会社勤めが苦しくなったのがきっかけでした。
「自由」と「稼げる」という二兎をはじめから追ったわけではありません。
「稼げなかったとしても、時間的に自由でありたい」
という思いからスタートしました。二兎を捕まえることができたのは結果論にすぎません。

 また、当然ながら逆のモチベーションもあるはずです。
「自分の時間なんていらないから、もっと働きたい。もっと稼ぎたい。もっと多くの年収が欲しい」
と思うのに、会社勤めであれば労働基準法に縛られてしまう。それが嫌でフリーランスになった、という人もいることでしょう。
 ともかく、働く時間も場所も内容も、自分で自由に決められる、というのが、フリーランスの魅力だと言えます。

 そして、実際にやってみて新たな魅力を発見することもありました。
 自分の責任と自分の判断で行った事業が成功することは、会社員ではあり得ないほどに充足感があるということです。
 フリーランスとして成功するということは、会社の名前を借りずに、自分自身が世の中に認められるということです。承認欲求が強く満たされることでもありますし、自尊心を高い水準で満足させることでもあります。
 私自身の経験としては、こちらの満足感のほうが、収入が増えたことよりも喜びが大きかったように思います。
 家を買ったときに、よく「一国一城の主になった」というような表現をしますが、フリーランスになることも、それと似ているのかもしれません。「会社」という主から独立し、小さいながらも自分自身が主となって、自分の足で歩き始めるのですから。


稼げる仕事とは

 フリーランスとして、どのような仕事が収入が多いのか、というのは、様々なページで解説されていますので、ここでは詳細は割愛します。一般的には、SEなどのITエンジニア職が年収が高いと言われています。

 ただ、実際にフリーランスのSEから話を聞いていて、私は思ったものです。
「マジシャンのほうが自由で、しかもマジシャンのほうが稼げる」と。

 この話は、「エンジニアよりもマジシャンのほうが稼ぎの良い職である」という意味ではありません。
「やりたいことを仕事としているから、稼ぎも良くなるのである」と私は言いたいのです。

 エンジニアの仕事に不向きな人が、エンジニアが儲かると聞いてエンジニアになったからと言って、それで上手くいくとは限りません。
 そもそも稼ぎのためにやりたくない仕事をやるのでは、フリーランスとしての意義がありません。会社に勤めたほうがいいでしょう。その方が年収も安定します。

 それよりも、自分の好きな仕事を、稼げる仕事に育てていくという発想のほうが、よりフリーランス向きの発想であり、そういう働き方こそがフリーランスの意義であるように私は思います。
 フリーランスは、企業よりも小さな売上で経営を成り立たせることができるのが強みです。市場が小さいからと、諦める必要はないのです。

 たとえば、全国に電気が普及して、どの家庭でも電灯が使える現代において、蝋燭はその役割を終えているように思えます。ところが、アロマキャンドルとしての人気が浮上して、蝋燭の売り上げは過去最高になっているのだそうです。
 このように、すでにブームが去ってしまったと思われるようなビジネスであっても、切り口が変わって再浮上することもあり得ます。

「もうオワコンだと思うけど、でもこの仕事がやりたい」
「イマドキ流行らないけど、でもその仕事が好き」
 こんな風に思うのであれば、ぜひその仕事にチャレンジしてほしいと私は思います。
 こういう領域は、企業が手を出せない、フリーランスのための領域なのです。

 そして、その上で、自分の仕事を稼げる仕事にしていくのが、そして高い年収を確保することが、たまらなく楽しい。
 これこそが、フリーランス冥利だと、私は思うのです。



廣木涼:マジシャンの稼ぎ方などを執筆・出版


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