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チップについて


 「チップ」とは、レストランやホテルなどで、規定料金とは別に、サービスを受けた「心づけ」として相手に渡す現金のことである。
 大好きなマジックを演じて、観客に喜んでもらって承認欲求を満たした上に、
「楽しかったよ。ありがとう」
と、チップまで頂けるというのは、なんと魅力的なことだろうか。
 しかし、我が国日本では、チップについての文化が根付いているとは言えない。
 この本を読んでいるあなたも、誰かにチップを払った経験は少ないはずだ。まして、チップのやり取りでトラブルが起こる可能性があるなど、考えたこともないのではないだろうか。

 観客が不快に感じて、クレームやトラブルに発展してしまえば、店舗に迷惑をかけてしまうこともあるし、「マジシャン」という職業の悪評が広がってしまう可能性もある。そうならないよう、チップをいただくところまでがエンターテイメントだと思い、観客を嫌な気持ちにさせないようにマジシャンは心掛けるべきだろう。

 この章では、チップの失礼のないいただき方、チップの金額を上げる秘訣を解説する。
 ちなみに、この章で説明することは、チップ制またはギャラ+チップ制の現場に限定されると思っていただきたい。ギャラ制の現場では、基本的にチップの話をすること自体が適切ではないし、仮にチップを渡されたとしても、必ずしもマジシャンの取り分にならないこともある。それでもチップ額を上げる要素を説明するとすれば、良い演技をすること、となるが、これはそもそも「観客を楽しませたい」というマジシャンとして通常の精神を持っていれば、わざわざ考えることでもないだろう。


クレームの出ないチップのいただき方

 チップには4種類の意味合いがあると言われる。
 ひとつ目に「素晴らしい演技を見せてくれてありがとう」という感謝のチップ。
 ふたつ目に「よくできました。はい、お小遣いあげるよ」という作業対価のチップ。
 三つ目に「お金はやるから、もうどこかに行ってくれ」という手切れのチップ。
 四つ目に「夢を持って頑張っている若者を応援したい」という応援のチップである。
 感謝のチップを貰えるように努力することはもちろん重要であるが、そのチップの意味合いを見極めることはより重要である。手切れのチップを感謝のチップだと勘違いして、追加でもうひと演目サービスしようなどとしてしまうと、顧客満足度が逆に下がってしまう結果となるからだ。
 そういったことを含め、クレームが出るには、クレームが出るなりの理由がある。その理由を解消していけば、自ずとクレームの出ない身の振り方ができるようになるだろう。
 ここでは、どのような状況が、クレームの出ない状況なのかを説明する。

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