【百科詩典】ディベートなんて

ディベートなんて、コミュニケーション能力の育成にとっては最低の教育法だと思いますよ。こっちから半分の人はこの論点に賛成、こっちから半分の人は反対の立場から発言してくださいなんていうことをやったら、出来合いのストック・フレーズをどこかから借りてくるしかない。それをただ大きな声でうるさく言い立てれば、相手は黙る。そんなくだらない世間知を身に着けたって、何もならない。そんなことを何百時間やっても、自分の中にある「いまだ言葉にならざる思い」とか「輪郭の定かならぬ感情の断片」を言葉にする力なんか育つはずがない。もっと大切なことがあると思うんです。まず思いが上手く言葉にならないで、ぐずぐず堂々巡りをする子に、「それでいいんだよ」と言って承認してあげること。

〜内田樹『14歳の子を持つ親たちへ』