強いチームの作り方

会社の人と話している時に、私が以前にどこかでプレゼンした内容を定期的に読み返していると言って頂きました。実は何を話したのかあまり覚えていなかったのですが、役に立っているのであればありがたいなぁと思いつつ、調子に乗ってその内容を思い出しながら整理してみたいと思います。

テーマは、どのようにして強いチームを作るかです。何か実現したいビジョンや達成したい大きな目標があった時、一人でできることはほとんどありません。何かを達成するためにはチームが必要です。ただ、優秀な人達が集まるだけで強いチームになるかというとそのようなことはありません。チームのパフォーマンスが個人のパフォーマンスの総和を超えるためには、様々なことを考え、実行する必要があります。

強いチームを作るというのは非常に大きいテーマです。私自身、ずっと試行錯誤しているので唯一の正解はよくわかりません。ただ様々なチーム、様々な事業を経験する中でいくつか重要な要素は見えてきた気がします。図に書くと下のようなイメージですが、1つずつ説明していきたいと思います。

チームが強くないのであれば、それはいつも自分の責任

何かを考える時、どう解決するかを考える前に課題を正しく設定することは何よりも大切です。課題設定が間違えていると、いくら解決方法を考えて実行しても、空回りするかもしくは効果は薄くなります。

では、チームを強くするための課題は何か。

組織のマネージャーやプロダクトマネージャーなど、もしチームをリードする立場にいる時、チームの強さに課題を感じることはよくあると思います。チームメンバーのスキルが足りない、思うように動いてくれない、自立性がない、など。どうしたらいいですか?と聞かれることもあります。答えは簡単です。チームが強くなるためには自分自身を変えることです。つまり、チームに強さに課題を感じるのであれば、それに対して解決すべき課題はいつも自分自身です。

いきなり他の人を動かすことを考える人もいますが、他人を変えようとする限り、強いチームになることはないと思います。強いチームになれるかどうかは、他の人を変えたり何かのテクニックで他人を行動させることではなく、自分自身が強いチームを作るために必要な行動を適切に行えるかが全てです。

それでは、強いチームを作るために自分自身がやるべきことについて書いていきます。

それぞれの人を深く知る

自分自身のマネジメントポリシーとして、Trust&Respectを一番大事にしています。誰かに対して尊敬していますと言うのは簡単です。尊敬の念を持って丁寧に接することは当たり前です。ただ本質的に重要なのは、尊敬されるべき強みを正しく理解する、ということです。

強みを正しく理解するためには、相手を深く知る必要があります。なぜ働いているのか、なぜ今の会社・チームにいるのか、成したいことは何か、得意なこと・周りが下手だと思うことは何か、など。深く知るための質問は非常にシンプルです。

ただし、これらを質問する上で大事なことが2つあります。

1つ目は必ず自分から話するということです。聞く前にまずは自分が話する、話ができるように考えを整理し、最初に自分自身のビジョンや価値観を話する。これが大原則です。そして、2つ目に大事なことは、無理に回答を求めないことです。避けるべきは、あるのに知らないことであって、ないものを無理に聞く必要は全くありません。むしろ、ないのであれば、ないということを知るのも非常に大事です。

多くの人は、意外なほどに一緒に働く人のことを深く知らないように思います。知り合って時間が長くなると段々と聞きづらくなってくるため、なるべく早い段階で聞くことをお勧めしますが、遅すぎることはありません(突然聞くとほぼ確実にびっくりされますが)。そして、実際に質問してみると想像しない答えが返ってくることが多くあります。それぞれの人の価値観は多様であり、聞くだけでも非常に面白いです。

では、どのような状態になれば深く知ったと言えるか。それは、その人を予測できるかどうかだと思います。何かを相談した時、何かをお願いした時、どういう反応が返ってきて、どのような会話が進行して、どういう結論になりそうか。つまり、過去を知るのではなく未来を予測できるかです。予測できるようになれば、ある程度は深く知っている状態、と言えると思います。

ネットワークを築き、予測可能な状態にする

それぞれの人を深く知った後、次のフェーズは人と人を繋げてチームとして機能するネットワークを築くことです。ビジョン達成のために行いたいことと、それぞれの人ができること・したいことを繋げていきます。誰かに任せるのではなく、自分自身が繋げていきます。

この際、大事にすべきポイントは3つあると思います。

1つ目は、役割を元にして繋げるのではなく、それぞれの人への理解に基づいて繋げることです。役割りを超えた能力を持っている人は多くいます。特に中途入社でシニアな方が多いチームであればなおさらです。一方で、もし役割を元にして繋がりを作っていくと、役割を超えた能力を生かすことができません。そのため、それぞれの人への理解に基づいて、強みが相互作用したり、強みと弱みが補完されるように繋がりを作っていきます。

2つ目は、なるべく階層的に繋げずに多重かつ相互に繋がるようにすることです。もちろん会社ガバナンスに基づいた意思決定をするために階層的な構造は必要です。一方、マネージャーよりもメンバーの専門性が高いのが当たり前という環境においては、階層的な繋がりだけでそれぞれの人の専門性を十分に生かすことはできません。なぜなら、階層上の上位にいる人がそれぞれの専門性を100%理解できないからです。専門性が多様化する中で、いわゆる上司と呼ばれる人が全ての専門性を身に着けることは非常に難しいです。それよりも、組織構造では可視化されない多様な繋がりを作り、お互いの専門性が活かされる関係とその専門性から生まれる情報が適切に流れるネットワークを作ることが重要です。相互に繋がっていればいるほど、必要な情報が必要なところに適切に流れ、結果的にチームの透明性を高めることに繋がります。

3つ目は、それぞれの人の相性を考慮することです。仕事だから相性なんて関係なく対応しよう、というのは確かに正論です。ただし、人間である以上、一緒に働きやすい人とそうでない人がいるのも事実です。全てを100%考慮することはできなくても、可能な限りは、スキルセットだけでなく人の相性も考慮して、誰と誰がどのように一緒に働くけば楽しく、気持ちよく仕事ができそうかをデザインします。相性も考慮することでチームのパフォーマンスは確実に上がります。

この3つを実行していくと、有機的な繋がりが多くなり変化に強い構造ができてきます。変化に強いというのは、自立的に最適解に収束していく状態です。そして、自立的に収束する状態になると、ある変化に対してどのように収束するかが予測できるようになります。例えば、新しい人がチームに入ってきた際に、ネットワークのどの位置に入ると、全体としてどのような変化が起き、結果としてどのように全体のパフォーマンスが変わるかが予測できるようになります。繋がりが強くなり、変化に対して予測できるようになれば、次の改善フェーズに移ります。

ネットワークを改善し続け、高速な反復を可能にする

変化が予測できるようになれば改善を行います。逆に言うと、改善に対する予測が立たないままに改善フェーズには移行できません。予測のない改善は単なる当てずっぽうです。ある変化に対する全体の変化が予測できないということは、それぞれの人を深く知らないか、もしくは自立的なネットワークが構築できていないか、どちらかに原因があると思います。そのような場合は、下手な改善をする前に、予測に自信が持てる状態になることを優先します。

話を戻します。改善フェーズで重要なのはどのポイントを改善するかです。改善はボトルネックだけにフォーカスします。仕事がスタックするポイント、コミュニケーションがループするポイント、何故か不思議と仕事が進まないポイントなど。実行するスキルが足りていなかったり、相性が悪くコミュニケーションが断絶していたり、理由は様々です。そして、理由が異なる多様な課題が大量にあることがほとんどです。

その中でフォーカスすべき課題は、解決した時のインパクト(成果への影響度)が一番大きいところだけです。言うのは簡単ですが効果的・効率的に行うのは非常に難しいです。なぜなら、大体のボトルネックは解決に時間がかかることが多く、時間がかかるために同時並行で事前に解決策を準備しておく必要があるからです。

発見>解決>発見>解決、と直接に解決しているようでは期待するスピードで改善はできないと思います。従って、あるボトルネックを解決した後の次のボトルネック、次の次のボトルネックに対して、それがボトルネックとはっきりわかる前から対応を実施していきます。これらは顕在化していないことが多いため、周りの理解が得にくく進行が難しいことがあります。自分の権限で進められる状況であれば良いですが、そうでなければまずは理解者を作る必要があります。理解者を作るのも時間がかかるため、自分で実効できる範囲を見極めた上で、解決までのタイムラインを組み立てる必要があります。

そしてもう1つ難しいポイントがあります。ポジティブな難しさですが、人の成長速度を予測する必要があるということです。課題だと思っていたら、想像を超えて成長する人がいて、全く課題でなくなったということはよくあります。想像を超えて成長するというのはとてもポジティブなのです。ただ、マネージャーの時間の使い方としては、本来そこに時間を割く必要がなかった、他に時間を使うべきだった、という観点においては反省すべきポイントになります。

まとめると、先読みとシミュレーションにより、改善にかかるコストと時間的な変化をシミュレーションしつつ、解決した時のインパクトの大きなものから順番に解決していく、ということになります。言うのは簡単ですが正確に行うことは非常に難しいです。ただ日ごろから予測していると、自然と精度は上がっていきます。精度が上がってくると非効率な改善に時間を使ってしまう機会は激減します。

継続的な改善にはゴールがありませんが、改善すればするほど、成果を出すための時間は短くなるため反復するスピードが上がります。反復するスピードがあがれば学びの回数を増やすことができ、結果的にはリスクを下げて成功の確率を上げることができます。

ネットワークの改善を効率化する

改善のサイクルが作られれば、さらに改善の効率を上げます。改善の効率を上げるためのアプローチは主に2つあると思います。

1つ目は、継続的にうまく行くと確信できるところに対して、変動性を下げて効率を上げることです。例えば役割を決めたり、情報共有のルールを設ける、などです。これらの決め事は基本的に変動性を下げます。ただ変動性が下がることによって効率は上がるので、変化が必要なくうまく行くと確信できるポイントには有効です。ただし、もちろんずっと変化が必要ないかはわかりません。そのため、変化の必要性を定期的に観察しておく必要があります。変化の必要を感じれば、決め事はすぐに壊します。

2つ目は、観察を効率化することです。課題が効率的に収集できるネットワークを構築したり、定例会議などを設けて効率的に情報が得られる仕組みを作ります。もちろん、これらの情報収集のネットワークや定例会議などの枠組みは、情報の流れがわからないままに作っても当てずっぽうにしかなりません。従って、改善フェーズで試行錯誤を繰り返し、情報の流れや変化の程度を見極めた後で、必要十分な仕組みを作ります。

改善の効率化までできれば、自分自身も含めてかなり自立的に機能する状態になっていると思います。ただ、マネージャーやリーダーにはもう1つの重要な役割があります。それはギャップを埋めることです。

ギャップを予測し、埋める

ここまでは、チームのパフォーマンスを高めることについて書きました。一方で、それぞれの人の強みを繋げてチームのパフォーマンスを高めていく、という話をした時によく聞かれることがあります。それは、チームのパフォーマンスを引き出せばビジョンや目標が達成できるのか?ということです。この質問に対する答えは基本的にNoです。いくら今のチームのパフォーマンスを最大化しても、達成すべきこととの間には大きなギャップが生まれることがほとんどです。

マネージャーやリーダーにとって、チームのパフォーマンスを最大化することは非常に重要ですが、目的はあくまでビジョンの実現や目標の達成です。埋まらないギャップは、どうにかして埋める必要があります。具体的にどう埋めるかはその時々に応じて変わりますが、常に避けるべきアンチパターンがあると思います。それは無理にメンバーにお願いしないことです。

短期間で、かつ、お互いに合意した無理であればお願いできることもありますが、基本的に長続きはしません。既に最大限のパフォーマンスが引き出されているのであれば、それ以上をお願いするのは良くありません。チームが壊れます。無理に振って仕事を完了した気になったり、その結果を見て期待通りの成果が出ないと嘆くのは最悪です。

では、どうするか。基本的には別の手段で解決します。他のチーム、会社の外の力を使うのも一つの手段です。採用をして根本的にチームのポテンシャルを引き上げることももちろん有効です。自分が得意で気力と体力が許せば自分で対応することも考えられます。ただ、いずれの場合においても、実行して効果を発揮するには時間がかかるものばかりです。他のチームや会社の外の力を頼るのであれば、日ごろからの繋がりを作っておくことが必要不可欠です。採用についてもどういう人が必要になるか、できれば具体的に誰を採用したいかを整理しておく必要があります。自分で対応するにしても、自分の時間が使えるように環境を整えておく必要があります。

従って、ギャップを正確に理解してから行動するのではなく、ギャップを予測し、事前に実行するための準備をしておく必要があります。この準備の多さは、マネージャーやリーダーとしての力量が試されるポイントだと思います。ギャップを埋める手段がなくなると、チームに無理をお願いすることになってしまい余裕を奪ってしまいます。余裕がなくなると、チームの強さが徐々に失われてしまいます。チームの強さを保つためにも、"外での解決手段"を可能な限り多く準備しておくことが求められます。

もし対応する手段がなくなってしまったら、自分の先読み力のなさを嘆きつつ、スケジュールを先延ばししたり目標を下げるなど、計画を変更するしかありません。残念ながら、対応する手段がないことに気づいてから対応策を考えても、間に合わないことがほとんどです。そのため、どれだけ先を予測して準備できるかが全てになります。

ネットワーク型のチーム構造はボトムアップ・トップダウンの両方が有効に機能する

少し横にそれたトピックですが、ネットワーク型のチーム構造の話をした時、ボトムアップ的なアプローチを強化するのが目的か?と質問されることがあります。答えはYesでもNoでもなく、ボトムアップ・トップダウンの両方に有効だと思っています。

ネットワーク型のチーム構造がボトムアップ的なアプローチに有効であることは直感的でわかりやすいです。階層的な組織構造によらず多様な繋がりであることで、事業間のナレッジ共有や偶発的なアイデアの創出を助けることができます。

一方で、トップダウン的なアプローチにも非常に有効です。その理由は、情報の伝達経路が最適化・多重化されることで、効率的に全体の方向性を変えることができるからです。

階層的な繋がり以外の繋がりがあることで、情報が伝わる経路を短くすることができます。また、ある人に情報が伝わる経路が複数存在することで、同じ情報を異なる角度から伝えることでます。これにより意図しない伝わり方も防止できます。これらの利点は、事業の方針を変えてチームの方向を一気に素早く変えたい場合、非常に有効に機能します。

ネットワーク型のチームの話をした時に、よくボトムアップ型の思想が強いのか?と思われることがあるのですが、全くそのようなことはありません。ネットワーク型のチーム構造は、ボトムアップ・トップダウン、それぞれが必要な状況において、いずれの場合でもより有効に作用します。

最後に

強いチームの作り方という大きなテーマで、意識していることを書いてみました。ビジョンは共有できているのに、効率的に物事が進まないケースは非常に多くあります。それが故に試行錯誤のしがいがあり、いつも多くの学びがあります。

可能な限り早く、強いチームを作るためには、固定化された方法論にはめず、人と事業の状況を見て個別のケースに最適化して実行することが非常に重要だと思います。また、それぞれの人を理解する一方で、個別のポイントだけを見ず、何かのアクションに対する全体への影響を常に予測し、本当に必要なことだけを行います。

ここに書いたことは銀の弾丸のようなHowtoではなく、人を知る、繋げる、予測する、無理しない、など基本的なことばかりです。基本的なことをずっと間違いなくやり続けるのは非常に難しいのですが、効率的に行えば早ければ1ヵ月ぐらい、遅くとも3ヵ月ぐらいあれば、良いチームだなぁと思う状態にはなってくると思います。

私自身100%できているかというと自信を持ってyesとは言えません。無理に何かをお願いしてしまうこともよくありますし、反省する日々です。これからも少しずつ改善してさらに良い方法論を見つけていきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?