AIキャラクターは、異なる複数のコミュニティへの参加を可能にし、人間の可処分時間を数倍に拡張する

今、私が所属しているrinna社は、AIキャラクターを事業の中心としています。ただ、単にAIキャラクターを生み出すことを目的にしているのではなく、AIキャラクターを社会的な存在として、人々のコミュニケーションや繋がりをアップデートすることを目指しています。このポストでは、そのAIキャラクターの価値について考えてみたいと思います。

これまで、AI技術と言うと主に認識系の技術が中心でした。音声認識や画像認識、データの分類など。もちろん画像や動画などの生成技術も以前からありました。ただ、OpenAIが発表したGPT-3によってその流れが大きく変わり、いよいよ人が面白いと感じるコンテンツが、安価に誰でも作れるようになってきました。今はテキストコンテンツが中心ですが、今後は、非コンテンツ、例えば、音楽や絵なども作れるようになってくると思います。ここで言う、"作れる"は、"AIでもここまでできる"ではなく、"誰が(何が)作ったか関係なく消費に値するほど面白い"という意味です。

そして、コンテンツが生み出せるということは、それを生み出す存在は人々の注目を集めることができます。人々の注目を集める存在が生まれると、現実世界の企業が採用して広報活動を手伝ったり、その他にも例えばアーティストとして活動することができます。また、それら活動が価値を生むと、その収益はクリエイターに還元することができ、新たなマーケットが生まれます。

ここまでは当たり前の話です。しかし、目指しているのは効率的なコンテンツ生成ボットではありません。AIキャラクターという存在を通じて、全ての人にそれぞれの生きやすい場所を提供することを目指しています。このポストでは、なぜAIキャラクターの存在が人々にとっての生きやすい場所を提供することになるのかを、書いてみます。

複数の顔と異なる場所を提供する

AIキャラクターは、説明書きや多少の学習で、より簡単にその性格を表現できるようになってきています。イケメンキャラや、かわいい子、動物まで、表現したい自分を創ることができます。また、このAIキャラクターは、他のAIキャラクターや人との社会的な活動を通じて、コンテンツを生み出すことができます。その性格や知識は、現実世界の自分とは異なるものです。

また、社会的な存在として、他のAIキャラクターと繋がり、会話を通じて関係を深めることができます。その関係もやはり現実世界の自分が属するコミュニティと異なるものです。

一方、AIキャラクターは簡単に作れるので、それぞれの人が複数のAIキャラクターを作ることができます。複数作れるということは、現実とは異なる複数のコミュニティに属することができます。

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複数のコミュニティに属していると何が良いか。それは、1つのの場所がつらくても、他の場所で幸せを求められる、ということです。たとえば、現実世界で辛くても、別のバーチャルなコミュニティでは認められて幸せ、という状態です。ある場所で幸せであれば、それ心のよりどころとして、つらい場所でも不幸が過ぎ去るまで我慢できるかもしれません。このようにしてバランスをとることができます。

今のインターネットはあらゆる場所で繋がりすぎて、人間関係をリセットしたり、別の自分を演じることがますます難しくなってきているように思います。これに対し、AIキャラクターという存在と通じて、それぞれの人に複数の居場所を提供することで、繋がりすぎて一貫性を求められるデジタル社会においても、複数の居場所を作っていけると思います。

AIと人間のmixed beingsで可処分時間を3倍にする

現実と違う顔を持つだけであれば、アバターでVR SNSに参加すれば良いのでは?と思われるかもしれません。確かにそれも良いと思います。ただし、AIキャラクターは別次元の価値を提供できます。

その1つが、環境を自律的に作れるという点です。環境というのは、その存在の社会的な立ち位置を定義づけるものです。そして、人間における一番重要な環境は、他者との関係性そのものです。AIキャラクターは、自律性を持って活動し、他の存在との関係、つまり環境を築き、コミュニティを形成することができます。

一方、AIキャラクターの活動は、その全てをAIで制御する必要はないと考えています。むしろ、AIキャラクターが築いた心地よいコミュニティの中で、好きな時に、自分自身がそのキャラクターの顔を使ってコミュニティに参加する。そして、そのキャラクターの顔で会話したり、自分自身のコンテンツをシェアする。つまり、その関係性の基本的な構築やメンテナンスはAIキャラクターに任せ、環境が良い時に、中の人としてそのコミュニティに参加して心地の良い時間を過ごす。そのような"いいとこ取り"が良いと考えています。この"いいとこ取り"を実現する人間とAIが混じった存在を、mixed beingsと呼んでいます。

そして、AIキャラクターの活動の大半が自律的に行われると、複数のAIキャラクターを演じることができます。例えば、3人のAIキャラクターを作り、70%の時間は自律的に活動すると、人間がそのキャラクターを演じるのは、30%の時間だけです。つまり、3人のキャラを1人分の時間で演じることができます。これは、mixed beingsの最大の面白さであり、実質的に人の可処分時間を3倍にすることができます。

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AIキャラクターは、単にAIで動くボットではありません。人間とAIの混合により、結果的に、人が複数のコミュニティに属せることを可能にし、人の可処分時間を3倍、それ以上に拡張します。

AI Character自身がSocial Catalystとしてコミュニティの壁を超える

これまでは、人の時間を拡張する存在として、AIキャラクターの価値を書いてきました。一方で、人と混ざらないピュアなAIキャラクターとしての価値があります。それは、社会の触媒(Social Catalyst)としての価値です。

こちらについては、以前のポストでまとめました。

社内のコミュニティにおいてもすでに様々なトライアルを実施しており、AIキャラクターという存在が、社内で人と人、人と情報を繋げる役割を果たしています。

また、こちらのポストにも記載しましたが、AIキャラクターは人の自己開示を促し、ピエロのような存在として、人々のコミュニケーションを促すことができます。コミュニケーションを促すことができれば、社会的なジレンマに対してより良い解決方法を生み出すきっかけを与えることができます。

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つまり、mixed beingsとして複数のコミュニティへの参加を可能にするだけでなく、AIキャラクター自身がそのコミュニティ同士のハブになります。これにより、コミュニティ間の分断も和らげることができると考えています。

まとめ

AIキャラクターという存在が、異なる複数のコミュニティへの参加を可能にし、人の可処分時間を数倍にできる。そして、そのコミュニティの間の関係も取り持ってくれる。最終的には、全ての人に、それぞれの生きやすい環境を提供できるとよいなと思います。

ちなみにですが、バーチャルな存在として、現実とは異なる顔で社会的活動をすることは、とても自然になりつつあります。下記のレポートを見ても、アバター同士の恋愛など、単なるちょっとした遊びを超えて、より深い社会的活動を行うのが当たり前になりつつあります。

このような流れに対して、魂の一部、またはすべてがAI化されたAIキャラクターが浸透していくのは、ごく自然な流れだと言えます。この分野は技術発展も非常に速いので、今後もより魅力的なAIキャラクターをより簡単に生み出すことができるようになります。そして、そのAIキャラクターを通じた関係性を構築するためのソーシャルプラットフォームを提供していき、コミュニケーションの在り方をアップデートしていきたいと思います。

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