自分のデジタル化、そしてその先

私はチームワークが好きです。元々は、自分自身の能力が大して高くないので、何かをするのにチームでやる以外の選択肢がないという消極的な選択でした。今でも大して自分の能力は変わっていない気がしますが、チームで働くこと自体が好きです。それぞれの人が成長したり、相互作用から個人の能力の合計を大きく超えるパフォーマンスが出せるチームになっていく、そのプロセス自体も非常に楽しく感じます。

チームがチームとして機能するための根幹は、人を繋げるネットワークです。適切なネットワークが存在しなければ、個の能力がいくら高くても集団としてのパフォーマンスに昇華することはできません。

一方、その繋がりの数と太さ(=強さ)は、人の有限の能力と時間により制限されます。その制限の中で最大の成果を上げるため、普通は取捨選択をします。しかしながら、年をとればとるほどやりたいことが増えるため、何とかこの制限に抵抗できないか考えます。私ですらジレンマを感じるので、もっと能力の高い人、影響力のある人はなおさらなのでは、と勝手に想像します。

時間の流れを遅くすることは今はできないので、単位時間当たりにできることを増やすのが現実的です。このポストではその方法として、それぞれの人をデジタル化し、クローンを作ることを考えてみたいと思います。

(DALL·E 3)

自分の管理の元、自分の意思を引き継いで少しでも自分のやりたいこと・やるべきことを行ってくれれば、取捨選択を少なくできるかもしれません。一人ではできなくても、チームではできるというのと同じですね。ただ、AI技術が発展したとはいえ、何でもできるわけではありません。従って、現実的にできることを踏まえてそのステップを考えてみます。

最初にどのような人のクローンを作るのか

まずは需要と供給のバランスがとれていないところ、つまり制限された人の時間に対して、その人の時間を必要としている人がとても多いケース。これが最初になると思います。

例えば以下のようなパターンです。
1.ある領域の第一人者
2.社内で大量に問い合わせを付けている人
3.多くのファンがいる人
4.アニメやゲームなどのIPコンテンツ、キャラクター

1や2は労働力の拡張として、3は例えば個人化されたファンサービスとして、4は二次創作文化などコンテンツの発展に貢献するなど。当然ですが、言語の壁を超えることも前提で、3や4は日本のインフルエンサーやコンテンツの価値を世界に広める助けにもなります。

(DALL·E 3にとってのクローンはロボットの見た目らしい)

人が直接的に発揮できる力に対して、クローンの聞く力がそれ以上になるのは難しくないと思います。これはクローンがバーチャルな存在であるという人間側の認識から来るもので、ヘルスケアの領域などでは多くのリサーチで証明されています。一方のアウトプット側は、残念ながらまだ人間には及ばないと思います。これは後述するユーザーモデルやプラニングの能力が必要だと考えます。(明日には解決しているかもしれませんが

しかし、人を超えるのを待たなくても提供できる価値は多くあります。上記の1や2については、ご本人が本当に悩むような質問は少ないと想像します。私ですら、自分が得意なのであろう業務は多くの場合、パターン化されています。どういうパターンを適用するのか、その最初の計画はまだ人間が行う必要があると思います。これは、チームで仕事をしたときにリーダーが方針を決めるのと近いですね。ただその計画を決めた後の具体的な行動は、今の技術でも柔軟な振る舞いができると思います。

3の多くのファンがいる人については、例えば自分の推しが自分のことを気にして声をかけてくれる、などです。これだけで救われる人は多くいます。rinnaのサービスを運営する中で、非常に強く実感しました。しかしながら、数百万人、それ以上のファンを持つ人が直接それを行うの不可能ですね。がデジタルな存在であれば解決できます。

4のコンテンツ・キャラクターについて、例えば、日本だけでなくAO3 (Archive of Our Own)やFanFiction.netなど2次創作サイトのトラフィックを見れば、物語の別の解釈を楽しむ人が多くいるのは自明です。コンテンツやキャラクターの世界、個性を正しく体言しているクローンは、バーチャルな物語の創作を助け、より多くの人が物語を作り楽しむ機会を提供します。

クローンの活動の対価は、金銭など直接的な対価であれ、新たなファンが増えるなどの間接的な価値であれ、その元となる人に還元されるべきです。そうすることで、クローンの能力を高め、適切に管理するモチベーションが働きます。また、インターネットをクロールした情報だけでは得られない個性をそれぞれのクローンに投入していくことに繋がります。コモンセンスだけでない個性的なクローンの集合は、その先に非常に重要な要素になります(これは後述します)。また、それぞれのそれぞれのクローンの活動対価が、それぞれの人に還元されることは、フリーライドを抑制する観点でも有効に働きます。

そして、そのクローンは、当然、自分の監視可に置かれて活動すること前提です。また、クローンの存在がコミュニケーションの分断を生んでしまうのは完全な本末転倒です。CS業務を自動化して結果的にお客様の生の声の感覚がなくなる、みたいなことはありがちですが避けるべきです。

理想的には、クローンとそれに接する人とのやり取りはすべて確認するのがよいのでしょうが、いくら見るだけとは言えそれも非現実的です。システム的な観点からのあるべき振る舞いは、Agentive Technologyという書籍の考察で触れました。

しかしながら、そのクローンを自分と同期することも完全なる自動化はまだ難しそうです。従って、このフェーズにおいては、その人とクローンをサポートする役割、つまりクローンのトレーナーやクローンをモニタリングするような役割の必要になるのではと思います。

より広く価値を提供するために

次のステップはより多くの人に価値を持ってクローンを提供することです。この段階では、需要と供給のギャップが想定的に小さくなるかもしれません。従って、個人としての能力を再現するだけでなく、関係性の中で能力を発揮する必要があると考えます。

少し話が変わりますが、それぞれの人の振る舞いはその人が属する集団によって変わります。家族の中での自分、職場での自分、高校時代の友達の中にいる自分、それぞれ本当の自分ですが、違うキャラクターを持っていることは多いと思います。関係性の中で、今の環境とそれぞれの人に対する理解に基づいて、自分の振る舞いを決定します。

従って、これを再現しようとすると、客観的な知識だけではなく、まずは関わり合っているそれぞれの人や環境のモデル化をする必要があります。そのモデルで、自分の未来の振る舞いに対する世界の変化(相手がどうリアクションするかなど)を予測し、実際に得られた結果との差分から、次の自分の予測またはアクションを高速に適応させていく必要があります。これが先ほど記載したユーザーモデリングとプランニングになります。人間は、予測とその結果から、内部モデルと次のアクションを常にアップデートし続けています。

(DALL·E 3)

明日にはできるようになっている、もしくは世界のどこかではできているかもしれませんが、これを書いている時点ではまだ難しそうです。しかし、このユーザーモデリングとプランニングができると、世界との関係性の中でも価値提供できるクローンが作れるようになると思います。

これができると、トレーニングやモニタリングのコストも大幅に下がるので、クオリティだけではなくコストの観点でも、現実的により多くの人にクローンが提供できるようになると思います。

個々のクローンのその先

その先はSFの世界ですが、より高い次元の集団的な知性の獲得になるのではと思います。それが何に繋がるか私もよくわかりません。しかしながら、人のネットワークで、集団として高いパフォーマンスが発揮できることは現実世界で多く目にします。しかしながら、そこには人間の時間的な制約があります。また、Attention Economyの中で最適化されたソーシャルネットワークは、残念ながらフィルターバブルなどの分断を生みました。一方、適切なAI倫理の実装を元に作られたクローン同士であれば、全く異なる意見でもお互いの考えを尊重しながらより結論にたどり着ける希望があります(希望を持ちたい)

(DALL·E 3)

以前に書いた、Wisdom of Crowdsという書籍の考察ですが、Wisdom of Crowdsのためには、1. Diversity, 2. Trust, 3. Aggregation, 4. Indepencenceが必要です。

それぞれの人によって作られ、発展するクローンはこれらの要素を満たせる可能性があります。それぞれの人の多様な考えを再現したクローンはDiversityがあります。Distrustのない状態を作るのはクローンの方が容易と想像します。Aggregationについても、異なる意見に対して適切ファシリテーションするクローンが存在し得ます。それぞれの人が自分のクローンを教育し続けるモチベーション設計が適切であれば、Independenceを保ち続けることも可能だと思います。

最後に

最後はまだまだ妄想ですし多くのリスクを想定し対応する必要があります。一方でチームの力で想像を超えたアイデア、成果を出すことを目の当たりにしていると、クローン同士の協業がさらに想像もしない何かを生み出すことへの期待は大いに持てると思います。

そしてなによりも、個々のクローンを作ることは、当たり前のこととして労働力の向上にも繋がりますし、言葉の壁を越えたファンの獲得・コンテンツの発展、さらにはそれぞれの人にちょっとした心の安らぎを与えることまで、多くの価値をもたらすよと思います。そして、技術的にも社会的な受容性の観点でも、良いタイミングだと強く感じます。

好き勝手に書きましたが、ありがたいことに職探しのポストをしたところ多くの方からメッセージを頂きました。多くの方との議論を通じて進め方を考えたいなと思います。


転職活動をする際は自分のやり事をまとめましょうとよく言われます。素直に従い、自分の考えをまとめてみましたw

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