プロフェッショナルチームのマネジメントについて

LINEには多面評価的な制度があって、半年に一度、一緒に働いている同僚やメンバーの方からフィードバックをもらいます。その中に、”独特なマネジメントスタイルで頑張っておられる”みたいなコメントがちらほらありました。直接話ししている時にも、”(マネジメントの)やり方にオリジナリティありますよねー”というフィードバックもたまに頂きます。

今、私がいるLINEのAI事業にいる人たちは、スペシャリストでかつ主体性の塊みたいな人ばかりなので、リーダーやマネージャーがいなくても、それぞれの方が持つ最大限の力(100%)のアウトプットは自然に出ると思います。

そんな中、LINEのAI事業のリーダー、マネージャーのミッションは、それぞれの人が持つ100%の力を、どうやって組織の力で200%、300%、それ以上にあげるか、です。一方で、LINEのAIプロダクトの構造は複雑で、それが故にそれに関わる人達の専門性の幅、深さともに、今までとは桁違いに大きく、かつ、関わる人もとても多いため、全てを私の頭で把握するには無理です(断言)。

そんな状況の中で、どうやって100%を数倍にしていくか、普段やっている(変わってる?)方法を書いてみたいと思います。

1. アンチパターン

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のっけからアンチパターンのご紹介ですが、こういう構造は避けます、必ず。これをよしとして、チャレンジングなプロジェクトが上手く行っているのを見たことがありません。まず情報を伝える経路が長くなりがちで、横のつながりがものすごく作りにくいです。そして何より、役割に縛られるのでそれぞれの人の持ち味が活かしにくい。個性が埋もれてしまって、もったいない組織になりがちで、100%のアウトプットすら出ないことが多いです。管理はしやすいのですが、成果は出しにくいです。なので、このパターンは避けます。

2. 基本パターン

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ではどうするか。基本パターンとしての組織やプロジェクト構造のこんな感じです。それぞれの人の役割や持ち味に応じて、他の人と有機的に繋がっている状態です。有機的に繋がっており、全体として求められる役割が変わっても、自律的にそれぞれの役割や関係性をアップデートして適応します。

この形の場合、得てしてコミュニケーションの量は多く、大体の場合、一定レベルでコミュニケーションが非効率的です(繋がりが多いので)。あまりにも非効率な場合は、少し整理しますが、基本的には多少の非効率性は必要悪なので、あんまり気にしません。(その時に、我慢できずに上記の階層型の構造にしちゃうのが、よくあるアンチパターンです)

そして、このスタイルにおけるリーダーの役割は固定化しないことが大事です。時と場合に応じて役割を変える必要があります。一番難しいのがここで、役割を固定せずに柔軟に変えるという専門性が要求されます。よく、何やっているのかわからない、と言われるのですが、成果のために全てをやっている、としか答えようがなく、よく困ります。

それはさておき、その瞬間瞬間で微妙に役割や立ち位置を変える必要があるので、パターンかはとてもしずらいですが、あえて分解すると大きく4パターンぐらいあると思っています。

2-1. リードする役割

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この時に必要なのは、ビジョンとパッション、そして、実行力です。

上記のようなスタイルの場合、よく語られるのが、前面に立たない、支える、みたいなキーワードですが、もちろん、そんなこと言ってられない場面は往々にしてあります。

何かプロジェクトを始める時、市場関係の変化でピポッドしないとダメな時、など、そういう時に前面に立たないリーダーは、リーダーじゃないですよね。もちろん、限られた時間で可能な限り意見は聞きますが、基本的にはさっさと決めるべきことを決めて、誰よりも早く向かうべき方向に走って行って引っ張ります。

何かをグイっと引っ張る時、必ずコンフリクトや混乱が生まれますが、そういうのは結果が見え始めると自然と解消するので、あまり寄り添いすぎずに迷いなく突き進んでいく必要があります。

2-2. 場を整える役割

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この時に必要なのは、調整力です。

方向性が決まって、それぞれの人の向いている方向があってくると、場を整えます。ステークホルダーとのコミュニケーションだったり、オフィス環境だったり、ワークツールだったり、まぁ大半は雑用ですが、メンバーが安心して集中できる環境を整えます。

環境が整ってくると、メンバー間の繋がりが徐々に増えてきます。繋がりが増えると、チームの中にカルチャーが生まれて、カルチャーは共通言語を生みます。チームとしての共通言語が共通言語が生まれてくると、良いチームになるつつあるなぁと認識します。

地道な作業が多いですが、一度作った環境は簡単には崩れなので、こつこつとベースパフォーマンスを上げるための環境作りをします。

2-3. 人と向き合う役割

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この時に必要なのは、"対話力" "問う力"です。

場が整ってくると、それぞれの人の個のパフォーマンスを超えて、組織全体でのパフォーマンスが120%、150%と上がってきます。ただ、その中で、パフォーマンスが100%から上がらない人達が必ずいます。そういう人を見つけたら個別の対話を繰り返します。何時間でも何日でも対話を繰り返して、共通の理解を作ります。

少し話がそれますが、パフォーマンスが上がりにくい人達は、得てして後になり想像を超えるアウトプットを出す人だったりします。要するに理解の深さが、他の人より深いので、必然的にスタートに時間を要するだけなのです。

このようなポテンシャルが深い人と多くの対話をすると、今まで気づかなかった別の視点で、深いインサイトが見つかることが多いです。場がある程度整ったら、パフォーマンスが出ない人との対話に時間を費やすこと、これが後々になって、一段と組織力を上げる起爆剤になります。

2-4. 人の関係性をメンテナンスする役割

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この時に必要なのは、"観察力"です。

それぞれの人のパフォーマンスが上がってくると、最後に残るのが人の関係性、人間関係だったりします。いくらハイパフォーマーな人でも、人は人なので、相性はあります。どこの相性が良くないか、それぞれの人と対話していると大体直感でわかりますが、基本的には観察しかない気がします。少なくとも今の自分には、"感と経験"以外にこれを発見する要素は見つかりません。

ちなみにマルチサイトで組織やプロジェクトをリードする時に一番難しいのがコレです。直接観察できなので、気づきにくい。そういう時は、同じ視点(マネジメントスタイル)を持った人との会話を通じて、離れた場所での人間関係を観察する。それも難しい状態であれば、Slackなどのやり取りをよーーく見ます。1週間分ぐらいを見ていると、8割ぐらい気づきます。

見つけたらどうするか。一番の解決方法は、相性が良くないそれぞれの人から信頼されることです。あいつが言うならしゃーねーな、状態ですね。最後は人間力が問われます。スキルセット的には、同じことをいろんな言葉(ビジネス、デザイン、企画、開発、などそれぞれの立場)で表現できるようになると、それが成立する確率は上がります。それもやっぱり難しいですが。

3. 新しい人の迎え入れ方

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このスタイルでチームや組織の型ができると、新しい人が入っても、受け入れるコストや、役割のアンマッチがとても起きにくくなります。なぜなら、自律的に対話を通じて、良い役割、良い立ち位置が自然と決まっていくからです。

具体的なプロセスとして、まず初期段階では、概要の期待値だけお伝えして、仕事を定義するところから始めていただくことが多いです。初めはあまりの放置さにびっくりされますが、1週間もすると周りの人と会話をし始めて、仕事を見つけようとして頂けます。その後、2週間ぐらいしたら1on1を実施して、その方のいわゆるmust/can/willを議論します。そうすると、ご本人の持ち味をどう組織にフィットさせるか、という観点で、一番効率良くワークする役割を見つけられます。

間違ってもすぐに役割を定義しようとはしません。早まって役割をきめようとすると、役割と持ち味のアンマッチが発生する確率が上がり、最適なポジショニングが見つかるのがギャンブルになります。なので、多少時間がかかっても、自然と最適解が見つかる方法で進めます。

4. 外部に対して、無理に理解を求めない

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このスタイルは、組織の外、プロジェクトの外からは、理解を得られにくいです。体制が流動的で、かつ、コミュニケーションパスが多いため、構造的に捉えにくいのは確かです。そのため、それぞれの役割に対して、誰が何をやっているのかがわかりにくい側面があります。誰が何をやっているのか知らなくても結果が出れば良いはずなのですが、一方で、旧来のスタイルで把握すること自体を良しとする人も一定数います。

今の会社にはほとんどいませんが、もしステークホルダーの中に理解を得難い人がいた場合、無理に理解を求めない方が良いと思います。理解を得るのは非常に困難で時間がかかります。それよりも、そういう人に対しては、旧来の階層的な構造に見えるように、見せ方を工夫した方がよさそうです。

実態がどうであれ、その人から見た時に安心できるような見え方であれば、理解を得やすいです。無理に理解を求めることは、無用なコンフリクトを生むだけなので避けます。成果を出すために、ステークホルダーとの安定的な関係を保つこともリーダーの大事な役割です。

5. マインドセット

方法論も大事ですが、その根底となるマインドセットも大事だと思います。常に意識しているのは3つです。

a) あらゆる立場の人へのリスペクト
数多くの専門家達と仕事をする上で一番大事なことはリスペクトです。正しくリスペクトするには、その人自身や、その人の仕事を深く理解する必要があります。とても難しいですが、深い理解は深いリスペクトを生み、深いリスペクトは深い信頼関係を生みます。リスペクトに基づく信頼関係は、コミュニケーションを劇的にスムーズにしてくれます。

b) 透明性
不必要に情報が遮断されることがない、というのが第一段階。何を言っても許される安心感、これが第二段階。最後の第三段階になると、どんな立場の人の意見でも尊重されます。つまり、何かを言うことが許容されるというのを超えて、ちょっとした提案でも受け入れられる状態です。なので、透明性が高い次元で浸透していると、"下手なことは言えない"という緊張感が生まれます。つまり、最大限の透明性は、組織に緊張感をもたらします。

c) ユーザーファースト
いわずともがなですね。ユーザーが誰であるのかを正しく理解し、そのユーザーと向き合うことを一番の優先事項として、常に実践していく。自分がユーザーファーストを率先して、それを楽しめば、組織やプロジェクト全体もユーザーファーストになっていきます。

6. 最後

長々と書きましたが、リーダー、マネージャーに求められるのは、ビジョンを持つこと、そして、それに向かってとにかく全てやる、それだけです。そのためにその瞬間瞬間で必要な役割を演じます。

大体の場合において、その目標は誰も成したことのない挑戦なので、やる決めた時点では、できるかどうかわからないことがほとんどです。しかし、とにかく全てやる、の姿勢で進めていると、やばそうになれば、ほとんどの場合で誰か何かに助けられますw (単に運が良いだけかもしれませんが)。たまにどうにもならないこともありますが、全力を尽くしてダメだったら、そもそも無理だっただけなので、さっぱり忘れますw

結果は神のみぞ知るですが、やり切るのは自分次第なので、常に後悔が残らないよう、これからも"とにかく全てをやる"を実践していきたいなぁと思います。

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