チームの柔軟性について

マーケットの状況、事業のステージ、チームの人数など、様々な要素によって、最適化なチームの在り方は変わります。チームの構造やそれぞれの人の役割、チームワークするためのプロセスまで、最適解はどんどん変わっていきます。

事業の立ち上げで非常に人数が少ない時は、一人で対応する範囲も多く、専門性を超えて仕事をする必要がありますが、事業が成長して人が増えてくれば、専門性を生かす構造やプロセスを組み立てる方が効果的です。最適解が動的に変わる中、ピープルマネージャやプロダクトマネージャーなど、チームで仕事をする役割の人達にとって、状況に応じて自律的に最適化されるチームは理想かもしれません。

ただ、勝手に自律性のある柔軟なチームになることはあまりなく、柔軟性を作れるかはマネージャー次第だと思います。ということで、マネージャーの視点でどうやってチームの柔軟性を作るかを考えてみます。

自分が柔軟になる

柔軟性に限った話ではありませんが、チームに何かを願うならまずは自分が実践すべきだなぁと思います。当たり前のことですが、実践し続けるのは難しく、一方で何よりも一番重要だと思います。チームの柔軟性を作りたいなら、まずは自分自身が柔軟に役割を変え、組織の境界を越え、仕事のスタイルも変え、誰よりも柔軟になる必要があると思います。自分を柔軟に保つのが、チームの柔軟性を作るスタート地点であり大前提です。

PMであれば、プロダクト開発に関する業務だけではなく、マーケティング、営業、カスタマーサポート、採用まで、必要があれば自分の役割を変えてプロダクトに関わる全てを行えれば理想かもしれません。もちろん、自分よりも得意な人がいるのに自分で仕事を抱えるのは良くありません。ただ、誰もいなければ、あらゆる境界を越えて自分でやった方が良いと思いますし、その方が楽しかったりします。特にPMの場合、それは自分の仕事じゃないと言ってしまったら物事は進みませんし、誰がやるかに関わらず、自分でオーナーシップを持って何とかする必要があります。

もちろん、あまりに不得意なことはチームにとってマイナスになるだけです。やるべきかやらぬべきかは自分の能力を鑑みて冷静に自分で判断する必要があります。一方、自分が最大限に柔軟になることは、直接的な成果だけでなく、チームの柔軟性を考えて実行できる権利を得るための最低限の義務になるのではないかと思います。

次に、マネージャーの視点でチームの柔軟性をどう作るかを考えていきたいと思います。以下では、意識しないと忘れてしまいそうなことを中心に書いてみたいと思います。

適切に、継続的に何かを止めて余裕を保つ

効率を上げるためにルールやプロセスを作ることは大切です。そして、ルールやプロセスを作るのは、さほど困難ではないように思います。特に、経験とスキルがある人が集まると、合理的なルールは自然と発生することが多いように感じます。

一方で、ルールやプロセスは、それを作った瞬間から最適でなくなっていきます。事業やマーケット、チームの状況は日々変化するので、今日の最適解は明日の最適解でないことが多いです。また、大きな変化、例えばチームメンバーが変わったり、マーケットの状況が変わったりすれば、以前のルールが最適でない可能性はどんどん高くなります。

そのためにルールやプロセス、またはチームの構造を適切なタイミングで見直す必要があるのですが、一度決まったものを再構築するのは結構しんどい仕事です。当然のことながら、何かを再構築するためには新しく何かを始めるだけでなく、多くの場合で何かを止める必要があります。よくあるかもしれませんが、止めることをせずに新しいルールやプロセスを追加だけすると、徐々に余裕がなくなってしまい、後に記載するような柔軟性を保つためのアクションが取れなくなってきます。

しかしながら、何かを止めるのは難しいことが多いです。なぜなら既にある決まりが100%悪いということはほとんどない一方、止めることのデメリットはほぼ必ずあります。さらにそのデメリットに対して、メリットの方が大きいことを説明するのは非常に難しいことが多いです。デメリットの大きさは、それがなくなった時に生じるリスクや具体的に困ることなど、想像しやすい例で説明することが容易です。一方で、何かを止めることによって生まれる、未来にあるかもしれない価値は説明することが非常に難しいです。

そのため、何かを止めるのに100%の合意形成を得るのは限界がありますし、何より多くの人がうすうす止めた方が良いと思っていることでも、その説明の難しさから中々言い出しにくかったりします。従って、マネージャーが適切に権限を使って自分で止めることを決めて実行する必要があります。もちろん、無意味に壊したり、壊すだけ壊して再構築しないなど無意味に壊すのは全くだめです。とはいえ、再構築するタイミングが最適かどうかなどは、後の結果を見ないとわからないことが多く、最後はマネージャーが自分で判断して実行する必要があります。

もちろん、何かを止めるのはルールやプロセスだけでなく、もっと大きな単位、例えばプロジェクトでも同じです。何かを始めるのはもちろん重要で何より楽しいですが、余裕を失わないためにもちゃんと止め続ける必要があると思います。

組織内の弱い繋がりを作る

何かを止めることによって生まれる余裕を柔軟性に発展させるには、弱い繋がりが重要になります。一般的に、繋がりには弱い繋がりと強い繋がりの2つがあります。プロジェクトなど、何か明確な目的を達成するための繋がりは強い繋がりと言われます。一方、弱い繋がりとは、明確な目的のための繋がりではなく、何をしているか知っている、何が得意そうか知っている、しかし具体的なプロジェクトで一緒に仕事をしているわけではない、という程度の繋がりです。

この弱い繋がりは、柔軟性を保つために非常に重要です。もし弱い繋がりが全くないと、ルールやプロセス、チームの構造など何かを変える毎に組織のネットワークを一から作っていく必要があり、非常に効率が悪くなります。これは見直しのスピードを劇的に下げる要因になり、スピードが下がると見直すこと自体に慎重になり、適切なタイミングを逃し、結果的に柔軟性が低くなります。

従って、マネージャーは将来の様々なパターンを予測しながら、それに備えるために弱いネットワークを構築する必要があります。この弱いネットワークは将来に渡って柔軟性を保ち続けるための、強力な基盤になります。

もちろん、この弱いネットワークは、マネージャーとそれ以外の人の繋がりだけでなく、今後、一緒に働くかもしれない人同士の繋がりも含まれます。マネージャーの自分を中心としたネットワークだけでなく、関係しそうな人同士のネットワークをマネージャー自身が作っていく必要があります。

ただし、それぞれの人同士の弱い繋がりを作ろうとすると、ある程度の時間的、精神的な余裕が必要になります。目の前の仕事があまりに忙しくては、弱い繋りを作る余裕すらなくなってしまうため、何かを止めることを続けながら弱い繋がりを作る余裕を保ちます。

この弱い繋がりを多く持つ組織ネットワークができてくれば、状況に応じてチームの構造を見直すことができるようになります。

チームの構造を少しずつ頻繁にアップデートする

ここでのチームの構造というのは、会社の組織図に現れる構造だけでなく、プロジェクトを実施する際のチームや、組織図に現れない人の繋がりや情報の流れを含む、チームワークにおけるすべての構造を指します。

チームの構造が固定化されると、チーム内での業務は効率化する一方で、情報の流れやナレッジの共有などが固定化され、柔軟性は下がっていきます。柔軟性が一度下がると、変化への耐性が下がっていき、より柔軟性は失われます。

これを避けるためには、チームの構造を見直しする必要があります。もちろん、プロセスの見直しと同じく無意味に見直す必要はありませんが、マーケットの状況、事業の状況、メンバーの増減など、最適解が変わる要因が無数にある中で、見直しが必要でないという状況の方が非常に特殊なように思います。

ただし、見直しが必要な状況でも、プロセスの場合と同じくPros/Consの両方が存在するケースがほとんどです。そのためチームの構造が自然と見直されることを期待するのではなく、マネージャーが自分で行う必要があります。当然ですが、見直しの対象は冒頭に書いたように自分自身も含まれます。

前に書いた弱い繋がりをマネージャー自身が主体的に構築していれば、当たり前ですが、弱い繋がりの自分自身が把握しているので、何かチームの構造を変えた時に起こる影響や、その負の側面をどうやって補うのかなど影響が予測しやすくなります。逆に、弱い繋がりがわからないと、何が起こるのかわからず、何かを見直すのが運任せになってしまい非常に危険です。

一度、予測できるようになると、何かを見直した結果との比較ができるため学習ループが周り、より予測の精度が上がっていきます。これは個人の経験ですが、チームの見直しに対する予測は精度が上がれば上がるほど、早く実行できるようになるのと同時に、"予測ができない部分"がクリアもなっていき、見直しの実行 > 観察のサイクルは小さく、早くなっていくように思います。

結果として、半年に一度の組織変更、と言った一大イベントだけに頼ったり、チームの変更で毎回大きな調整コストをかけることなく、毎月、毎週、さらには毎日のように、少しずつ少しずつアップデートしながらその時その時での状況に最適化し続けることができます。

そして、最適化し続けるというのは、常に変化し続ける状況です。変化し続けることが日常になれば、それは非常に柔軟な状態だと言えると思います。

まとめ

チームの柔軟性を保つための要素として4つを上げてみました。

  1. 自分が柔軟になる

  2. 適切に、継続的に何かを止めて余裕を保つ

  3. 組織内の弱い繋がりを作る

  4. チームの構造を少しずつ頻繁にアップデートする

これ以外にも、信頼関係を作るであったり、透明性を保つ、など基礎的な多くの要素が存在するのですが、今回は自分自身にとって、特に意識していないと忘れがちなことを書いてみました。

もちろん、組織の人数が多くなっていくと自分ひとりだけで全てを実行するのは段々と難しくなってきます。その場合は、マネジメントする範囲を分散するのですが、この場合も階層的にマネジメントする範囲を切り分けるだけでなく、マネジメントをするためのネットワークを作っていきます。常にネットワークを作っていくことで、人数が多くなることで起きる関係性の希薄さを最大限に抑制しながら組織を拡大していけるようになると思っています。

内容は以上ですが、自分自身が全てを100%で実践できているとは全く思いません。特に止めることはよくうやむやにしがちです。一方で周りを見ていると、環境の変化に対してチームとして柔軟に動けるマネージャーはこの4つを自然と実践しているように感じます。自分自身でも100%以上で実行できるようにしていきたいと思います。

以上。

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