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なんで掛川なの?

って聞かれる。出身地なの?とか。縁もゆかりもない土地掛川で家族ともちょっぴり離れ在宅医療を立ち上げる40歳男の頭の中とやっていることの話。

掛川に来たのはご縁というしかない。強いて言えば、はじめて今の職場の見学に来たとき天気がよくて茶畑が美しかったから。いつもそういう直感で決まっちゃうし、後悔することもない。だけど掛川だからできることは、たくさんあるんだ。

自分としては、地域と病院を繋げたい。5年半在宅クリニックで地域活動をしてきたが、やっぱり病院で働く医師との壁は高かった。自分が病院勤務の時は地域のこと、患者さんの生活のこと全然知らなかったし。だから、病院が地域ヘルスケアのハブになる形を見てみたい。

掛川市には在宅を専門でやっている医療機関は一つもない。そこに縁もゆかりもない40歳の男が在宅診療部を病院に立ち上げようというのである。さらには、地域のハブになろうというのである。在宅診療部と言っても現状メンバーは自分1人である。病院のメンバーがちょっとずつ手伝ってくれている。1人で掛川の在宅医療の未来を思い描いたりしている。開業した訳ではないから、患者さんが増えたからといって収入が増える訳でもない。あなたならそんな条件で、縁もゆかりもない土地で40歳になって鼻毛に白毛が混じるようになった条件で、どんな未来を思い描くか。

そんな未来像はまたどこかで話すとして、10月1日の今日、無事診療を開始できたことを記録として残しておきたい。

心の内を話すと、診療が始まるまで本当に見ず知らずの僕に、しかも胸毛に白毛が混じっている僕に、患者さんを診させていただけるのか心配だった。先に言っておくと鼻毛だけではなく胸毛にも白毛はあるので間違った訳ではない。診療が始まるまでの1ヶ月、診療システムを構築する傍ら多くの方々に会いに行った。ニッコリが良いのか、ちょっと硬い面持ちが良いのか、会いに行く方々の部屋の前で一度足が止まった。在宅医療では、病気をみることも大切だが、その人自身を生活や文化も含めてみることが求められる。会いに行く先々で僕は自分自身を見てもらうことを意識した。僕はどんな人物なのか。好きなこと、苦手なこと、できること、できないこと。築地のまぐろみたいに尾を切って肉づきを見てくれたら楽なのになと思った。

10月になり診療が始まる時点で10人以上の診療依頼をいただく形になった。ほとんどが、周りの支えてくれた方々のおかげだと思う。もし僕によかったことがあるとすれば、きれいな茶畑をみて掛川にくると決めたこと。この土地は良いところだなあ〜って感じている。それがなんらかの形で伝わっているんだと思う。じゃないと見ず知らずの白毛持ちでお腹のゆるい40歳の男に大切な人を任せたりするだろうか。

退院してきたばかりの初めての担当患者さんは、入院前よりずっと元気になったみたいで、たまたま訪れてくれた民生委員の方がびっくりするほど。その民生委員の方が持ってきてくれた梨がとっても美味しそうで、多分剥いたら一緒に食べようって話になるだろうと台所へ。年季の入った包丁でよく冷えた梨を剥いて持っていくと美味しそうに一口。たっぷり溢れる梨汁にもむせはないみたいだ。

「先生もいかがですか?食べきれないから・・」と。 もちろん食べきれない量を剥いたんですよ。でもみんな幸せでしょう。在宅医療立ち上げは良いことばかりではないとは思うけど、今日は甘い梨を頬張り人生甘くたって良いんじゃないとようやく不安な気持ちに一区切りつけるのである。




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