大沢さんと音楽の旅

高校時代はロックばかりを聞いていた自分の音楽遍歴に転機をもたらしたのは間違いなく大沢伸一さんだった。

※不定期でyoutubeでDJ liveをやっているのでぜひ聞いてほしい。

大学の頃、当時フレッシュネスバーガーで働く自分に一緒に働く先輩がハウスミュージックというジャンルを教えてくれた。その中で最初に勧められたのが、大沢さんがMondo Grosso名義で発表していた「Next Wave」だった。これが自分にとっての大沢さんとの最初の出会いだ。

本アルバムはCM提供曲や、Dragon AshのKJ、UA、BoAなどポピュラーなアーティストとのコラボレーションもあり、非常にキャッチーで、Mondo Grossoの名前をポピュラーにしたと言ってもいい。今ではDJやプロデューサーが自分の名義で音源を出すことは当たり前になっているが、それまではほとんどこうした作品はメジャーではなかったと思う。その中でこの一枚が多くの音楽プロデューサーのメジャーでの作品発表の道を開いたのではないか。ベタだが、自分はリード曲「Everything needs love feat.BoA」の清々しさが好きだ。

この後、大沢さんがプロデュースしていたBirdの曲や、本作以前のMondo Grossoのアルバムを掘っていく。その中でジャズのようなヒューマンタッチな音楽から徐々に4つ打ちのダンスミュージック的な要素が深まっていっているのを感じた。そして実はCMで自分が気に入っている曲を大沢さんが手掛けていたことに気づく。Birdの「LIFE」は聞いたことのある人も多いと思う。実は商業的な音楽の裏には素晴らしいプロデューサーがいることをこうして知ることになる。

自分の中ではMG4Rというリミックスアルバムに入っている「Now You Know Better」が気に入っている。非常にエモーショナルなボーカルとサウンドが心に残る。大沢さんの曲には、エモーショナルな曲が多い。歌詞も良いのだが音自体がエモーショナルなのだ。表現は時代によって変わっていく中で大沢さんの音楽で変わらない部分だと思う。

大沢さんの音楽は「Next Wave」の後、Mix the Vibeという海外の有名なダンスミュージックのコンピレーションシリーズでCDをリリースする。このアルバムまではNext Waveと似たダンサブルなハウスミュージックが中心となっている。大沢さんの音楽を聞いてから、Jazztronik、Studio ApartmentやDaishi Dance、Little Tempoなどの日本のダンスミュージックを掘っていった。今や有名な中田ヤスタカもCupsleとして活発に活動しており、よく聞いていた。海外でもメジャーなところで言えばBasement JaxxやFatboy Slim、Chemical Broothersなどを聴き漁った。

しかし、大沢さんはそこからまた違う音楽へと足を踏み出していく。エレクトロというジャンルを開拓していったのだ。「Fearless 4/4 Rockers」というディストーションバリバリかかったエレクトロのアルバムを出す。本作には元ミッシェルガンエレファントのチバユウスケとの「Saxophone Baby」といった楽曲も入っている。自分の中では高校時代聞いていたロックとそれまでの大沢さんの音楽がつながり、カッコいい!と心を貫かれたが、それまでのMondo Grossoのサウンドを聞いていたリスナーの間では賛否が起こっていたように思う。エレクトロだとVitalicやDigitalismなどの海外のアーティストの楽曲も聴いていた。大学時代はお茶の水のDisc Unionとジャニスレコードによく通っており、更にそこからフジロックなどフェスに参加することで自分の中でも音楽の旅の道が広がり、ジャンルレスに楽しいものになっていった。その道の入り口は間違いなく大沢さんだった。

大沢さんの音楽表現も更にジャンルレスになっていき、2007年Shinichi Osawa名義で「The One」が発表される。本アルバムでは最初の曲が「Star Guitar」というChemical Brothersの曲のカバーで始まり、最後はRyuku Discoという沖縄のダンスミュージックユニットとのコラボレーションの楽曲で終わる。ここからだけも大沢さん自身の音楽の幅の広さが感じられるだろう。

大沢伸一フリークである自分はこの後もずっと大沢さんの音楽を追っている。ボンジュールレコードの上村さんとのOff the rockerというDJユニットや、Toys Factory小林武史さんとBloodberry  Orchestraという名義で楽曲を出していた。また、安室奈美恵、MINMI、浜崎あゆみなどそうそうたるJポップシンガーに楽曲を提供している。大学以降Jポップもほとんど聞かなくなっていったのだが、自分の琴線に引っかかるものはJポップでも結局大沢さんが作っているものが多かった。

2017年、「何度でも新しく生まれる」で再度Mondo Grosso名義で音源を出す。これはそれまでの大沢さんの音楽の旅を再度メジャーのアーティストにぶつけながら結晶化していったものだ。自分にとっては留学からちょうど帰国するタイミングで、また日本でMndoGrossoの新曲を聴けることに喜びを感じたのを覚えている。

その後も映画音楽など継続した活動を行う大沢さんがコロナ禍の今、Youtubeでほぼ毎週末DJを行っている。学生時代、大沢さんのDJプレイを聴くためにクラブに行っていたこともある自分にとってはコロナ感染拡大の中で唯一の嬉しいことだった。家にいながらにして大沢さんのLive DJが聴ける時代が来るとは想像もしなかった。
その選曲を聞きながら再度大沢さんの幅広い音楽の嗜好性と、そのDJプレイの卓越性を思い知らされる。ダンスミュージックから日本の歌謡曲、しっとりしたジャズまでジャンルレス、ボーダレスの選曲がめくるめくつながり、豊かな休日をもたらしてくれる。
そして何より、人に振り回されず、自分の好きな曲を聴くことの喜びを大沢さんのDJから再度思い出している自分がいる。大沢さんも音楽のジャンルを気にせず自分の好きなものを聞けば良いということを言っていたが、その言葉に心から共感する。純粋に音を楽しむことの喜びを大沢さんは今も教えてくれているのだ。




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