母のように
病院の待合室で
隣の空いた場所に ポンっと小さな手提げを放ったおばあさん。
支払いの済んだ明細を無造作に置き 私に刺さっても知らぬ顔
身支度が済んだら ヨッコラショと座り、不躾な人かと警戒していたら
少しして...
左から『ちょっと...』と苦しげな声がした。
まるでそれは、普段母が私にする問いかけのようで
深く言わずとも家族なら察することができるイントネーション。
何か手が要るんだな、と見やれば 首もとのボタンがはまらない様子。
思わずにやけたら おばあさんも笑う
母にするように優しくボタンをかけてやった。
続いて身支度をしたら、帽子に入った手袋が床に落ちた。
それも拾ってやる。 初めて会うおばあさんだけど。
『ありがと』と言い、持ち物を整える。
立ち去るまで見ていては失礼かと知らぬ顔をしていたが
おばあさんは『お先に』とも言わず そのまま普通に出てゆく。
知らない人だけど、そのくらい何気なく手を貸すことが普通。
自然に手伝えたことに嬉しく思う。
母くらいのその人がいない人には
そういう手伝いはできないの、だろうか?
おばあさんはあの時、
娘にしてもらったように感じただろうか。