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脱炭素先行地域という現象

現れては消えていく環境、脱炭素関連の用語たち。
その一つ、「脱炭素先行地域」とは何か、どのような現象なのか?
脱炭素界隈では一昨年からホットワードだけれども、これは長続きするのか、それとも更新されないWebページのように忘れ去られるのか、考えていきます。

脱炭素先行地域とは

脱炭素に取り組む日本政府の基本戦略が「脱炭素ドミノ」です。
大企業や自治体など影響力の大きな主体が脱炭素に取り組めば、ドミノ倒し的に中小企業や家庭といった脱炭素にあまり積極的でない主体にも取り組みが波及する。殿様がチョンマゲをやめれば下々の者もチョンマゲを切って洋服姿になるアプローチです。文明開花の音がしますね。
この脱炭素ドミノの重要なピースに位置付けられているのが「脱炭素先行地域」です。他の地域に先駆けて脱炭素達成にコミットした地域です。2021年6月に閣議決定された地域脱炭素ロードマップで導入された比較的新しい取り組みです。

地方自治体の脱炭素の現在位置

2020年10月に日本政府として2050年カーボンニュートラルを打ち出して以降、多くの地方自治体が2050年の二酸化炭素排出量実質ゼロを目指すと表明してきました。
2023年3月末の段階で、茨城県を除くすべての都道府県が2050年のCO2排出実質ゼロ(2050年カーボンゼロシティ)を表明してますし、531市、21特別区、290町、46村が表明していて、これらの自治体に住んでいる人口の合計は約1億2,577万人だそうです。(この数字は環境省の資料から持ってきましたが、総務省人口推計の2023年3月1日時点の日本の総人口1億2,449万人を上回っているのはご愛嬌)

2050年ゼロカーボンシティは、脱炭素を目指すと首長が表明するだけでOKです。多くの自治体が宣言と合わせて、具体的な取り組み施策を公表していますがレベル感はそれぞれです。
このような状況で、脱炭素をさらに加速するために導入されたのが脱炭素先行地域というわけです。

どんな内容にコミットしているのか

脱炭素先行地域は、①一定のエリアを設定して、②2030年度までに家庭やオフィス、店舗の電力由来のCO2排出を実質ゼロにする策を立て、③具体的な取り組み(再エネ導入など)を立てて、認定を受けています。市町村全域での脱炭素達成を目指す必要はなく、住宅街や中心市街地などのエリアを選んで計画を立てることができます。
対象となる家庭やオフィス、店舗ですが、温室効果ガス界隈では「民生部門」と呼ばれまして、民生部門はさらに、家庭と業務その他(オフィスとか店舗とか、いわゆるサービス業)に分類されます。
日本政府が削減目標の起点にしている2013年の排出量は、日本全体で約14.1億t-CO2、家庭と業務その他の排出が約4.5t-CO2で全体の約32%です。これらの部門は、既存の技術で脱炭素の実現が可能と見込まれてます。
民生部門以外の部門としては産業(農業と工業)、運輸、エネルギー転換(電力会社とかガス会社とか)がありますが、これらの部門は既存の技術だけでは脱炭素の実現が困難と考えられています。
ということで、まずは民生部門の電力由来(←ここ重要)CO2排出の実質ゼロ(←ここも重要)を実現しましょう。今ある技術の組み合わせで2030年までにできるでしょ?となったわけです。

脱炭素先行地域では、脱炭素への取り組みを通して地域の社会経済課題の解決をすることが求められています。脱炭素は目的であると同時に手段でもあるわけです。脱炭素への取り組みを通して、人口減少やインフラの老朽化など地域の課題解決をしてくださいという、複合的な取り組みが求められています。

2030年時点で電力由来CO2ゼロは大手上場企業でもあまり見かけない高い目標ですが達成可能な横道も残されていて、非化石証書といったクレジット(排出権)を購入してオフセットすることが認められてます。つまり、最後はお金で解決する道筋も残されています。

どこが選ばれているのか

これまでに3回の選考が行われ、62の地域(事業)が、脱炭素先行地域として認定されています。政府は最終的には100程度の地域を選定したいとの意向です。第1回が26地域、第2回が20地域、第3回が16地域で、ちょっとスピードダウンしているようです。また、申請している自治体も事業内容も、小粒化しているように見えます。加えて気になるのは、事業内容のネーミングの安っぽさ、ダサさ。「全村!全力!全活用!~脱炭素がつなぎ、脱炭素で輝く地域コミュニティ~」って何をする事業なのか全くわからない。

以前は自治体単独での事業も可能でしたが、第3回からは民間事業者との共同提案が必須になりました。民生部門のCO2ゼロを達成するためには、民間事業者の参加は確かに必須でしょう。

脱炭素先行地域の事業内容

これまでの採用率は以下のとおりです。
第1回 応募79件→採用26件 (採用率32.9%)
第2回 応募50件→採用20件 (採用率40.0%)
第3回 応募58件→採用16件 (採用率27.6%)
先行地域というだけあって、事業には先進性が求められ、すでに認定されている地域と同種の事業は評価が低いようです。これまでにない新しさが求められるという意味で、今後の選考のハードルはさらに上がっていくと考えられます。

各地域の共同事業者の顔ぶれは以下のとおりです。
多いのは電力会社やガス会社ですが、病院や農協など、エネルギーを使う側(需要家側)の参画も増えています。

脱炭素先行地域の共同事業者

脱炭素先行地域になるとどんなメリットがあるのか

まず、お金がもらえます。これ大事。
認定を受けた自治体に対して交付金が支給され、さらに自治体から事業者に補助金として支給されて必要な設備の導入に使うことができます。
交付されるのは費用の2/3なので、事業者は自己負担1/3で設備導入ができるわけです。さらに地域金融機関が融資をしてくれれば、自己資金実質ゼロで事業スタートもあり得ます。
令和5年度の予算は350億円です。
最終的に100ヶ所を選定すれば1地域あたりの支援額はそこまで大きくないですが、費用の2/3という交付率は補助金の中では高めであることなど、政府もがんばっている印象です。これ以外にも人材育成などの補助金や地方債の発行など多数の施策が用意されています。

もう一つのメリットとして、地域のブランド向上や脱炭素に向けたノウハウの蓄積があり、これは大きいと思います。
地域の脱炭素は、今のところ、どこにも達成した自治体などいないわけですが、その中で手を挙げて関係者を巻き込んで、一定レベルの計画を仕上げる行政マンのセンス、手腕、感度は素晴らしいと思います(事業のネーミングは微妙だけど)。
うまくいかなかったとしても、取り組んだビジネスモデルの課題は見えてくるわけで、それも価値ある情報になるでしょう。
自治体が自身の魅力をアピールするとき、この取り組みを通した経験値がアドバンテージになったらいいなと思います。

そのほかの取り組みと俯瞰する

脱炭素先行地域の取り組みが始まる前から、各自治体には「地方公共団体実行計画」という、いったい何を実行するのか分からないネーミングの計画を作ることが求められています。もちろん、脱炭素に向けた実行計画で、この実行計画の策定が脱炭素先行地域の選定にあたっての要件にもなっています。

まとめ

脱炭素先行地域は、日本の脱炭素実現を地域から推し進めていく、その中核となる取り組みです。省庁横断で様々な支援策が用意されていますし、人材面でのサポートもされています。2030年がゴールということで、短期間で成否も判明します。全ての事業が成功するとは思えませんが、失敗も貴重な情報ですので、各先行地域には事業が上手くいかなくても、何が原因だったか深掘りして発信をしてほしいと思います。
民間事業者や住民をどんどん巻き込んで、忘れられない取り組みになりますように!

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